始まりはヨーロッパへの恩返し。宮崎に根付く「武道ツーリズム」


日本人の価値観を再発見する旅に


興味深いのは、海外の剣士だけではなく日本国内からの需要もじわじわと増えていった点だ。新型コロナウイルスの影響で海外からの受け入れは厳しくなったが、国内旅行の問い合わせが増えた。

宮崎には神話も多い。神社を周って神話を学び、武道、座禅、茶道、滝行などを体験したいというニーズが増えているのだ。同じ日本にいながら非日常を味わうことができ、さらに古くから伝わる日本人の考え方や伝統を体感するきっかけになる。宮崎の武道ツーリズムをきっかけに、武道を始める人も少なくないようだ。



日本を愛する既存層とのコミュニケーションを


一連の取材を通して、「武道ツーリズムは本当に海外のライト層に着目すべきなのか?」と疑問に感じた。

なぜ、遠い異国の地で外国人剣士たちが剣道を始めたのか。なぜ、いま武道への注目が高まっているのか。それは、海外で剣道を実践する剣士が少ないような時代から、丁寧にその魅力を伝えてきた先人たちがいたからだ。現在の「需要」の土台には、彼らの努力と功績がある。

事業の継続を考えれば、未経験者に簡易なアクティビティを提供することで、大きな売上が期待できるかもしれない。それも一つのツーリズムの形だ。しかし、それだけではいけないはずだ。

ツーリズムに関わる人たちの、「人とつながりたい」「私たちの文化を深く知って欲しい」「国も、文化も、人種も越え、学び合いたい」という強い意志があってこそ、その先の発展があるのではないだろうか。宮崎で見た、礼を通じ、国を超えて生まれた心のつながりは、幸福にすらつながっているように思う。

いまだ新型コロナウイルスの影響で観光客は少ないが、多田氏に今後の展望について伺った。

「日本でしかできないことを経験してもらい、そこに関わる人たちの人間性をお伝えしたい。交流を通して、私たち自身も学ぶことが多いです。日本の“礼”の精神や武道に海外の方々が憧れるように、私たちも彼らの文化に恋い焦がれています。与えるだけではなく、相互の交流を通してつながりを広げていきたいと思います」

文=佐藤まり子

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