オランダで芽吹く未来の種

新型コロナウイルス感染症が蔓延するまで、訪日外国人の数は増加の一途を辿っていた。訪れる外国人たちには、日本独自の“コンテンツ”である武道をはじめとした「道」のアクティビティが人気だった。

スポーツ庁は2017年、武道ツーリズムを「日本でしか体験できない、スポーツと文化(伝統文化・精神文化)が融合した、希少性の高いツーリズム」とし、促進を宣言。特に、武道未経験者である「ライト層」からの消費を期待していた。筆者も「経済効果を見込むのであれば、ライト層に向けたツアーを伸ばす方が良いのでは」と考えていた。

しかし、この考えは武道ツーリズムの成功事例として注目を集める宮崎県を訪れ、180度変わった。

きっかけはフランス人剣士たちへの恩返し


1999年、剣道具製造業の創業家三代目の多田竜三氏は、ハンガリーを訪問した。海外では日本のように防具屋がなく、当時、ヨーロッパの剣道家たちはボロボロの防具を使っていたそうだ。

防具職人の仕事を幼い頃から見てきた多田氏は、滞在期間中にボランティアで防具を修理。大学卒業後も「ヨーロッパで自分にできることがあるのでは」とフランスに移り住み、剣道防具屋稼業をスタートした。

後ろ盾も人脈もなく、身ひとつで飛び込んだ先では、思いがけない裏切りや孤独があった。売上を確保するのも難しい。そんな厳しい状況で多田氏を支えてくれたのは、フランスの剣道家たちだった。

「フランスで何度も死ぬ思いをしました。現地の剣道家の皆さんがいなければ、私は今ここにいないかもしれません。彼らの役に立ちたいと思っていたのですが、当時のパリは物価も高く、いただいた恩に返すことはできませんでした」と振り返る。

あまり知られていないかもしれないが、ヨーロッパは武道が盛んだ。全日本剣道連盟や警察、大学から毎年各国にトップレベルの選手や講師がセミナーに派遣されているため、なかには日本人剣士よりも深い知識と経験を持つ剣士も少なくない。そして、彼らは武道を長く続ければ続けるほど、「日本で学びたい」と思うという。

文=佐藤まり子

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