それから5年後の2021年になっても、フェイスブックの28億人のユーザーは、いまだにテキストのコミュニケーションに頼っている。しかし、ザッカーバーグは今、新たな革命の到来を告げている。今回は、ビデオではなく「オーディオ」こそが文字に取って代わるのだという。
ザッカーバーグは4月19日、Discordで配信されたジャーナリストのケーシー・ニュートンとの対談で、「オーディオは第一級のメディアになると考えている」と話した。
フェイスブックはここ最近、オーディオに関するさまざまな新しい取り組みを発表しており、そのひとつがタイムラインに音声クリップを投稿させる「サウンドバイツ(Soundbites)」と呼ばれるものだ。さらに、DiscordやClubhouseと似通った、グループチャット用のオーディオルームも用意される。
同社は、「オーディオ・クリエイター・ファンド」と呼ばれる基金も立ち上げる。その詳細は不明だが、TikTokやSnapchatのような仕組みであれば、最も人気のある音声コンテンツを投稿したクリエイターには報酬が支払われるはずだ。
ここで重要なのは、ザッカーバーグが大手メディアではなく、個人のインフルエンサーを呼び込みたいと考えている点だ。これは、2016年からの戦術変更であり、時代を反映したものと言える。フェイスブックとその競合らは音声プラットフォーム上で、小規模なクリエイターのコミュニティを引きつけるというアイデアに、執着している。
しかし、ザッカーバーグが話すSNSの最新トレンドや新たな機能についての話は、彼がかつてビデオへの情熱を語った頃と、どこか似通っている。
今から数年前、多くのメディア企業は、ザッカーバーグが約束した膨大な視聴者を獲得するために、フェイスブック動画に軸足を移した。その頃、フェイスブックは、ニューヨーク・タイムズなどの大手メディアに、動画の制作費を支払う姿勢も見せていた。
動画シフトが生んだ犠牲者たち
しかし、それから1年も経たないうちに、フェイスブックが動画の再生回数を水増ししていたことが発覚した。その2年後、広告会社のグループが訴訟を起こし、フェイスブックが算出した動画の数値に15%から900%もの誤差があったと主張し、裁判に発展した。その後、彼らの動画における偉大な実験は、終わりに向かっていった。
結果的に、テキストが生き延びた一方で、フェイスブックの動画シフトに参加した企業のいくつかは、死んでしまった。例えばMicの場合は資金が尽き、2018年11月にBustleに約500万ドルで身売りせざるを得なくなった。この金額は、以前の資金調達の際に彼らにつけられた1億ドルの値札とはかけ離れたものだった。
Mashableもジフ・デービス(Ziff Davis)に5000万ドル以下で売却されたが、この金額も以前の2億5000万ドルを大きく下回っていた。Voxはなんとか生き残ったものの、大量のレイオフを余儀なくされた。
フェイスブックの壮大なオーディオの実験が、動画と同じ運命をたどると決めつけるのはまだ早い。しかし、一つだけはっきりしているのは、もしこの実験が失敗に終わった場合、巻き添えを食らうのは、メディア関連のスタートアップではなく、個々のインフルエンサーたちになることだ。