ただ、悪政をただし、社会正義を貫くという水戸黄門のような意識が、逆に政治に接近する結果も招いた。代表的な例が、進歩的な考えが強い法曹らが作った「ウリポプ(我々の法)研究会」だ。文在寅政権が2017年、「厳格で清貧な生活を維持している」として指名した金命洙大法院長(最高裁長官)も同会の出身。大法院長は大統領府の指名を受けた後、国会の人事聴聞会を経て大統領が任命するため、どうしても時の政権との距離は近くなる。金氏は大法院長就任後、進歩的な考えを持つ判事を多数、幹部に起用したと言われている
韓国司法に詳しい日本の法曹関係者の1人は「文在寅政権になって、2012年以降にできた元徴用工や元慰安婦らに配慮する司法判断が加速したと言えるだろう」と語る。文在寅大統領は繰り返し、「三権分立」を訴えて、司法判断への介入はできないと説明してきたが、司法が行政を忖度する文化がないとは言えない。
結局、元徴用工や元慰安婦らの救済を強く掲げた文政権が、日韓関係の改善に舵を切ると、司法もその流れに逆らえなくなった。文氏は「主権免除」を認めなかった1月の判決について、同月の記者会見で「困惑している」と語った。日韓関係筋によれば、文政権は最近、韓国政府が日本政府や企業の損害賠償を肩代わりする「代位弁済案」について、原告団や司法関係者らの反応を探ってもいた。
こうした流れを読んだ韓国司法は1月判決の慰安婦訴訟でも、日本から訴訟費用を徴収できないとする判断を下した。21日の判決は、一連の韓国司法による軌道修正の結果だったと言える。韓国政府関係者の1人は21日の判決について「韓国メディアは判決を歓迎こそしないが、日本を強く糾弾もしなかった。韓日関係の改善が必要だと感じてるからだ。その点、今回の判決は、国民世論に寄り添うという本来の韓国司法の趣旨に沿ったものだったと言えるだろう」と語った。
韓国司法の迷走で苦労させられた日本だが、韓国をあざ笑ってばかりもいられない。今回、日本政府の対応のまずさを指摘する声も出ているからだ。外務省は21日、敗訴を予想して駐日韓国大使を呼んで抗議する準備を進めていた。日本の法曹関係者の1人は「判決を予想できなかったと言うことは、それだけ日本の情報収集能力が落ちているという事実を自白しているようなものだ」と語る。現場の責任とも言えるが、世論を気にして日韓の首脳や外相会談を避け続け、結果としてパイプの先細りを招いた政治家の罪も重い。また、別の法曹関係者は「1月の判決で控訴しなかった外務省はメンツにこだわり過ぎだ。控訴することと主権免除の立場は矛盾しない。控訴していれば原告の逆転敗訴になる可能性が高く、強制執行問題という余計な荷物を背負い込まなくて済んだのに」と語った。
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