韓国司法に詳しい日本の法曹関係者は「裁判体が違えば、提出される証拠も主張も違う。異なる判断があっても問題ないし、それが司法の独立という意味だ」と説明。そのうえで「今回の訴訟のように外交問題に発展する事案の場合、どこの国の司法もできるだけ一貫性がある判断を下そうとする」とも語り、異なる判決が出た展開に驚きを隠さない。
ただ、加藤勝信官房長官が21日の記者会見で、同日の判決について「適切なものと考える」と語ったように、日本では、そもそも「主権免除」を認めなかった1月8日の判決こそ異例の判断だったとみていた。別の法曹関係者も「21日の判決でようやく流れが元に戻った」と語る。この関係者が語る「元の流れ」とは、韓国大法院(最高裁)が2012年5月の徴用工訴訟判決で、1965年の日韓請求権協定によっても個人の請求権は消滅していないという判断を下す以前の流れを指す。韓国司法はこの大法院判決以降、徴用工・慰安婦訴訟で日本を困惑させる判決を連発してきたからだ。
では、なぜ、韓国司法は、日本からみて異例と言える判決を続けてきたのか。今回の判決を下したソウル中央地裁のホームページには「国民に信頼される良い裁判、国民が必要とする迅速で効率的な司法サービスを提供するために努力する」という地裁トップのあいさつが紹介されている。これが韓国司法の基本精神だ。
韓国司法には軍事独裁政権時代、金大中元大統領に対する死刑判決や、在日韓国人留学生をスパイ扱いした判決など、市民たちを様々な冤罪から救えなかったという苦い経験がある。また、韓国政府関係者の1人は「韓国司法には、弱者を救済しなければいけないという強い使命感がある」と語る。この関係者によれば、韓国では自由よりも平等を重視する空気が強い。不正入学や徴兵逃れに市民が怒るのも、平等を強く意識するからだ。韓国の司法関係者には「市民の平等を担保する役割も担っている」という考えが強く、社会的弱者を救済すべきだという使命感を持っている。
そして、「国民に信頼される良い裁判」を意識するあまり、世論に流される傾向もある。「元の流れ」を変えた2012年5月の大法院判決当時は保守の李明博政権時代だったが、前年12月に京都で行われた日韓首脳会談が、慰安婦問題を巡って決裂。韓国内の日本に対する空気が急速に冷えていく時期にあたっていた。判決を下した裁判官が退官後に行った韓国メディアとのインタビューで、弱者の救済など正義を貫くためだったという趣旨の説明をしていた記憶がある。このインタビューが掲載された後に会った知人の韓国外交官は「正義の味方気取りなんだろうが、おかげでこっちはいい迷惑だ」と怒っていた。