地方発イノベーションの秘訣


神戸市がゲノム解析で先行する理由


──ゲノム解析の特徴、ゲノム解析を行うメリットとは?

ゲノム解析は、変異株を見つけることもできるのだが、それが目的で始めたわけではない。最大のメリットは、感染ルートを推定できるところにある。例えば、東京で広がっていたウイルスが、ポーンと神戸に来たのか、それとも大阪のライブハウスに一緒にいた人々のなかで広がったウイルスなのかが、ゲノム解析をすることによって判るようになる。

したがって、感染防止対策そのものにもゲノム解析は役立つと言える。感染場所が特定されれば、いまよりピンポイントで有効な対策が取れることになるだろう。

──なぜゲノム解析を始めようと考えたのか?

新型コロナウイルスのゲノム解析は、昨年3月、国立感染研究所の黒田誠病原体ゲノム解析研究センター長が、全国に83ある地方衛生研究所に呼び掛けた。そのときやろうと応えたのは10カ所程度と少数派だった。

神戸市健康科学研究所では、自施設の検査で陽性となった検体だけでなく、市内の病院や民間検査機関から同研究所に検体を集められるようにした。そして、昨年11月に国立感染研究所の研修に研究員を派遣して、詳しい解析方法を学び、自前でゲノム解析ができるようになった。


5年前に購入したゲノム情報を取り出す機器

──どうして神戸でゲノム解析が進んでいるのか。特別な理由があるのか?

全国でゲノム解析が拡大しないのは、PCR検査や入院の調整に追われ、検査機器のある施設に陽性検体を集めることに苦労しているからだと思う。ところが神戸では、検体集めに病院や保健所などの協力が得られている。

実は神戸市は、20年ほど前に「結核」の人口当たりの患者数が政令指定都市のなかで2番目に多くなったことがある。結核菌は、感染者が咳をすることで空気中に撒き散らされ、他の人が吸い込むことで感染する。しかも、風邪のような症状で、ゆっくりと進行するので、自分が結核とは思っていない感染者が他の人にうつしてしまう。 そんななかで、結核菌を集めてのゲノム解析が効果を発揮した。

一例をあげると、あるエリアの数人の結核患者の菌を調べると、家族でも同じ職場でもないのに、同じ遺伝子だった。保健所が各人の行動を聞くと、同じパチンコ店に行ったことがあるという。そのパチンコ店には、いつも咳をしていたが、自分ではただの風邪だと思い込んでいたという店員がいた。その店員を調べると結核に感染していた。

このような対策が功を奏して、神戸市では結核患者が減少した。この成功体験から、保健所や病院も、ゲノム解析が感染症の連鎖を断ち切る「決定打」になると理解している。現在は、保健所の車が週に2回、市内13の病院などを巡回して、新型コロナウイルスの検体を健康科学研究所に運び込んでくれている。


廊下の壁に貼られた研究論文

ひと通り質問をした私が最後に案内されたのは、神戸市健康科学研究所の研究員たちが海外の学会誌などで発表した研究論文が壁一面に貼られた廊下であった。研究活動にも力を入れていると話す飯島所長の穏やかな語り口からは、「神戸市健康科学研究所」という名のとおり、市民の健康を科学の目線で支えているという自信が溢れていた。

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文=多名部重則

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