ビジネス

2021.04.28

宮崎の秘境でキャビアを自作。33歳「建設屋の息子」たった一人の挑戦

宮崎県椎葉村の建設会社「鈴木組」の鈴木宏明


脱・下請けの気概でキャビアを自作


「もうやっていられない」と投げ出したくなったことが、もう一度あった。

宮崎県はチョウザメ養殖を1983年から推進し、飼育尾数で日本一を誇る。県内で養殖したチョウザメの卵は、「宮崎キャビア1983」のブランド名で製造・出荷する宮崎キャビア事業協同組合に納入することになっていた。

ある年、組合から買い取り価格の値下げを一方的に通告された。鈴木は「我々は組合の下請けではない」と憤ったが、キャビアの製造方法は組合が握っており、養殖業者はチョウザメを水揚げしたら組合に差し出すほかなかった。

「自分でキャビアを作ってみよう」と考えたが、社内で猛反対にあった。組合に売れば100万円近い収入になるのに「わざわざ失敗する意味がない」と。しかし鈴木は、YouTubeなどを頼りにキャビアの製造方法を独学で学び、1回目の挑戦で運よく成功。その後は失敗もしながらノウハウを積み上げ、「なんとか1年後には自社製造が可能になりました」と微笑む。現在は「平家キャビア」という自社ブランドで生産し、飲食店やECサイトに出荷している。


低温殺菌を行わないのでフレッシュでクリーミーな味わい。「平家キャビア」20g入り8640円~。

同業者に請われれば、鈴木は喜んで作り方を教える。「キャビアの供給量が増えて価格が下がれば、食べる人が増え市場は広がる。養殖参入者も増えて、全体で餌代などのコストも下がりますから」。

市場拡大のため、キャビアのさまざまな食べ方をSNSで自ら発信する。チョウザメ肉も、この3年半毎日食べ続けている鈴木いわく「唐揚げにすると絶品」だという。

チョウザメ関連の売上高は、ここ1〜2年は1.5〜2倍の伸びだ。鈴木の挑戦は、家業が育んできた経営資源から新たな価値を生み出した好例として、また山村の環境を利用して6次産業化を実現した成功例として、注目と期待を集めている。


鈴木宏明◎1988年、宮崎県椎葉村生まれ。大学卒業後、NTT東日本に勤務。2014年に故郷にUターンし、有限会社鈴木組入社。現在は宮崎キャビア株式会社専務ほか、椎葉の伝統食「ねむらせ豆腐」の事業も第三者承継。


アトツギ甲子園◎中小企業庁と事業承継ネットワーク全国事務局が主催する事業プランコンテスト。34歳までの中小零細企業の承継予定者が対象。2021年は全国から101人が応募、15人が予選通過し、2月19日の最終審査会に出場。

文=三河主門 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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