本を読むことは、人との付き合いに似ている
堀内:本を読むことは、人との付き合いに似ています。本を読んでいると、その人があたかもそこにいるような感じがするじゃないですか。一方で、本を読むのと同じくらいの刺激を与えてくれる人間もいます。刺激を与えてくれる人間との会話と、面白い本を読むことは、僕の中ではほとんど同じ。本の素晴らしいところは、今生きていない人との対話が無限に可能になることだと思います。
坪田:めちゃくちゃ共感できます。伝記を読むことで、歴史という厳しい選別を受けて残ってきたすごい人たちとの対話ができます。しかも伝記を通すと友達になったような感覚で、異時代の人たちとの対話を体験できます。こんな体験、ほかではできないですよね。
堀内:本当にそうです。立場や年齢が違う、しかも偉い人とサシで話すことはなかなかできません。しかし、本なら物怖じせずにフラットに対話できるのが素晴らしいです。
「名前が教科書に太字で出てくる」偉人の伝記を読め
堀内:坪田さんは教育上の目的から、本を子どもにすすめることはありますか?
坪田:あります。対象の年齢にもよるのですが、高校生あるいは大学生から「教養を身に付けるためにどんな本を読めばいいですか」と聞かれたら、「日本史や世界史の教科書に太字で出てくる偉人の著作」と答えています。基本的に選んで間違いはない本ですし、堀内さんの『読書大全』でも、偉人は多く紹介されていますよね。でも、そもそも今の子ども達は本を読まなくなってきています。
『読書大全』(堀内勉著、日経BP刊)
堀内:僕はその辺りの事情をよく分かっていないんですよ。子どもたちというのは本を読まない時間に何をしているのでしょう。
坪田:子育てをしていて僕は、気づいたことがあるんです。日本の小学校は「詰め込み教育をさせている」というイメージがありますが、そういう教育を「せざるを得ない」部分が多分にあるということです。
僕の娘は6歳で、インターナショナルスクールに通い始めました。インターナショナルスクールで習う文字は、アルファベットの大文字小文字の合計52文字で事足ります。対して、日本の小学校では6年間の間に漢字を1000文字くらい覚えないといけません。音読み、訓読み、熟語などもありますから読み方のパターンが増えます。
英語であれば52文字を確実に知っていたら大体は読めますが、日本人として本を読むためには1万パターンぐらい覚えないとスラスラ読めません。ですから日本の小学校では反復学習をせざるを得ない。そこのハードルが高過ぎて、文字を理解しそれを組み合わせて読解するまでに行くのが難しい。「学問、教養」の世界にたどりつくまでが遠距離すぎるんです。
堀内:人類が蓄えてきたさまざまな知識があるのにもったいないですね。現代では知識はいくらでもネット空間にあるけれど、あまりにも無秩序にばらまかれている。知りたいことを調べ始めてもいろいろな説や意見があって、肯定する人もいれば否定する人もいます。歴史的な位置づけだって、学者によって見解が分かれるものです。そうすると、知識の海の中で溺れるような感覚になってしまいます。
坪田:「地図がない」んですよね。解釈も人それぞれですから、フィルターが毎回違うわけです。そういう意味で、『読書大全』は名著だと思っています。僕は書評で多くを学ぶことが今までありませんでした。しかし今回、自分が読んだ本の記憶と堀内さんの書評とを比べてみたんです。すると理解度にかなりの差があって、地図の解像度が違いました。