だが、そうした創造的破壊を実現するのは簡単ではない。ワンアップヘルスによるインフラの構築は、新たな地域での電気設備工事になぞらえられる。電気工事では、まず家と家を結ぶ電線をはりめぐらせる必要がある。
そうした「電線」にあたるものが、医療システム、保険会社、アプリ開発者をつなぐ接続だ。ある地域で電流を流すためには、各家屋と街路を結ぶ変圧器が要る。それと同じように、ワンアップヘルスは各医療システムや保険会社の内部に入りこみ、複数の形式で保存されている大量のデータを取得。そのすべてを、FHIR(ファイアと発音)と呼ばれる標準フォーマットに変換し、クラウドに保存する。その後、ワンアップヘルスのソフトウェアにより、別の組織が安全な方法で患者データをやりとりできるようになる。
サフーは、このように医療システムが互いに「会話」をするという構想をもとに、ワンアップヘルスを2017年に創業した。同社の社名は、魔法のキノコがプレイヤーに新たな命(1UP)与える任天堂のビデオゲーム「スーパーマリオ」にちなんでいる。
患者が自身の集積データにアクセスできるようになれば、自分の体をより良く知り、よりうまくコントロールできるようになる。サフーはそれを、ビデオゲーム内でアバターをコントロールすることになぞらえている。「現実の世界でそれを実現する最善の方法は、顧客や患者が、自身の健康データの枷を外し、自分でコントロールできるように後押しすることだ」
ワンアップヘルスは当初12の医療システムを接続し、以後、その数は数千にまで拡大している。現在では、35件の企業契約により、合計1100万人を超える患者に対応している。同社は、プラットフォームへの定額アクセスを提供するほか、組織がソフトウェアを利用するたびにごく少額の料金を徴収して収益を得ている。そうした料金は、合計すると患者ひとりあたり年間2ドル前後になる。
「当社はデータを売っているのではない。顧客が自分自身のデータに基づいて活動できるように支援しているのだ」とサフーは話している。