ライフスタイル

2021.05.01 18:00

見上げれば直射月光、浴室は露天。文京区・超狭小「延床6坪平屋」の贅


では、「2階建てにしなかった」以外に、この家の設計で「あえてしなかったこと」はなんなのだろう。保坂は言う。

「浴室を家の中につくらなかったのも、『あえてしなかったこと』ですね。代わりに、家の南側テラスにバスタブと給湯器を置いてみた」。ロケーションが東京のど真ん中だけに、入浴時は周囲からの目隠し対策として、敷地内につくった約2メートルの壁の上に「テント」を張る。


(写真:Koji Fujii / TOREAL)

「一度、あんまり月がきれいだったので、テントを外して入っちゃったことがありますけれど」と恵が笑う。


露天風呂。入浴時はテントをかけて(写真:Koji Fujii / TOREAL)

「地球の基本要素をすべて備えた」18㎡


「僕は蛍光灯でなく、自然光が美しく映える建物が作りたいんです」という保坂。建築家としてのフィロソフィーには、「地球の基本要素を大切にする」ことがある。

保坂の「基本要素」とはすなわち、太陽、月、星、植物、草、樹木、動物、鳥、人、空、地面、水──。どんなに小さい家でもその要素が全部あることが絶対だし、朝昼夕夜、あるいは春夏秋冬、時間と季節の移り変わりに答えてくれる家である必要がある、と譲らない。

「3月になると、南からの直射日光が室内の床全体に入ってきます。そして夏に近づくにしたがって太陽光が急角度になるので、直射日光に照らされる床面積が広くなります」

逆に冬の3カ月は、直射日光がまったく差さない。しかし考えれば、それは北欧の極夜に似た光環境だ。「それも楽しんでいます。そしてなによりも冬は、その代わり月の高度が高いので、『直射月光』が美しいんです」


夜は天空光が「直射月光」に変わる(写真:Koji Fujii / TOREAL)

「寝る時間によって、または日々、月や星の位置が変わるのが楽しいです」と恵。2月の終わりになると直射日光が少しずつ入ってくる、季節がもうすぐ変わる、春が来るな、と気づく。家の中の植物に光があたって床に落ちる影が濃くなってくると、「夏が来るんだな」と思うという。

月光、日光にかかわらず、この家では「天空光」が雄弁に季節を語るらしい。


さまざまな表情の天空光をとりこむトップライト(写真:Koji Fujii / TOREAL)

「お風呂に入っていても、春になると桜の花びらが舞ってきて湯船に浮いたりして。この18平米の家に季節がどんどん取り込まれて入れ替わっていくのが、日付や暦でなく、肌でわかりますね」(恵)
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文=石井節子

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