特に磁気健康器具の預託商法で摘発された「ジャパンライフ」事件では、全国で約9900人が約2090億円を騙し取られている。
国民生活センターによれば、出会い系サイトやマッチングアプリをきっかけとした投資詐欺の相談件数も増えているという。そこで出会った外国人の異性などから、海外の投資サイトに誘導されて、ビットコインなどの暗号資産を騙し取られる被害が増えている模様だ。
老人を狙った犯罪も引き続き目立ち、先日は、74歳の女性が、複数の会社を経営しているという男から「1億5000万を譲りたいので手数料を」と言われ、ATMで2700万円以上を振り込んでから詐欺に気づいたという事件もあった。
甘い期待に冷水を浴びせかける大掛かりな詐欺
今回紹介するのは、『グッドライアー 偽りのゲーム』(ビル・コンドン監督、2019)。資産家の老婦人と彼女を罠にかけようとする老詐欺師との、綱渡りのような関係を、サスペンスフルに描いたミステリーである。
イギリスを代表するアカデミー賞女優ヘレン・ミレンと、日本では『ロード・オブ・ザ・リング』の魔法使いガンダルフ役で有名なイアン・マッケランの豪華共演が話題を呼んだ。
2009年のロンドン。未亡人のベティ(ヘレン・ミレン)が、パートナー探しのサイトで出会ったロイ(イアン・マッケラン)と初デートするところから物語は始まる。
薄い水色の上質でシンプルなコートを颯爽と着こなすシルバーヘアのベティと、トレンチコートにハンチングという英国紳士然としたロイは、見るからにお似合いの熟年カップル。好感触で会話が弾みデートを重ねるうち、足の悪いロイがアパートの上階住まいであることを知ったベティは、自分の家に同居しないかともちかける。
一方、ロイが、偽の投資話を持ちかけて大金を騙し取るプロの詐欺集団の一員であることは、冒頭近くで明かされる。ロイの相棒ヴィンセント(ジム・カーター)を始め、熟練詐欺師たちのひと癖ありそうな濃いルックスは、いかにも裏社会の雰囲気だ。
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知り合って間もない相手を、厚意から1人暮らしの家に住まわせるベティの人の良さは、やはり育ちのいいお金持ちだからだろうか。そんな彼女を、時々訪ねてくる孫のスティーブンは心配し、ロイとの同居について警告する。
すっかり打ち解けあった頃合いを見て、会計士に成り済ましたヴィンセントを招き、「ロイとベティ2人の資産を一緒にして殖やしてみては?」という提案をさせて様子を見るロイだが、ベティは難色を示し、意外にしっかりしたところを見せる。
焦れたロイがベティとの距離を詰めようとすると、「セックスはお断り。私たちは友人よ」と撥ね付けつつ、随所に笑顔とユーモアを忘れないところから、ベティのなかなかチャーミングで暖かい人柄が窺える。
見かけ上は、互いに労り合って仲良く暮らす裕福な老カップルのベティとロイ、いやヘレン・ミレンとイアン・マッケランの並びが、ビジュアル的にあまりに素敵だ。なので、ベティの資産を狙っていたロイも彼女の人柄に惹かれて罪悪感を覚えるようになり、ついに改心してすべてを告白し許しを乞えばいいのに……とか、そこまで行かずとも、ベティが途中でロイの悪巧みに気付いて一発逆転となるんだろうなという思いが、観る側に芽生える。