結局のところ、物理的リスクと移行リスクは増加しており、企業が受ける影響は保有資産の地理的分布によって異なってきます。洪水、干ばつ、山火事、熱波、異常気象などによるさまざまな物理的リスクが資本レベルで与える影響について、企業や投資家たちが理解するため、S&PグローバルのTrucostは最近、「気候変動による物理的リスク分析」を開始しました。
2019年3月に、Trucostは、2019年は企業が気候関連の問題に対処する方法を転換する年になると予測し、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関わる問題は主流投資家の注目を集める上で非常に重要であり、米国実業界の広い範囲でESGの問題によってビジネスモデルが再構築されていると予見しました。金融市場でもESGに注目が集まっており、貸し手や投資家など、誰もが持続可能な金融の見通しについてより明確な答えを求めていることを考慮すると、この主張は正しいと言えるでしょう。
気温上昇2℃以内というシナリオにはまだまだ届かない(イメージ: S&P Global)
リスク上昇による「予防」の必要性
ここまでのところ、気候変動リスク対処策の多くが実施されていたのは、「適応」という側面からで、これは「予防」ではなく、起こってしまった影響に合わせて対応する(多くの場合、気候変動リスクはすでに現実のものとなっているため)ということ。残念ながら、適応に必要とされる資金は、2030年までに現在の9倍に拡大するという推定もあります。このギャップは新興国だけの問題ではありません。異常気象現象に対する対応力は、先進国の方があるものの、準備するには適応策に多額の投資が必要となる場合が多いのです。
特に、一般的に発電会社は高い炭素価格のリスクにさらされていますが、物理的リスクは各会社が操業している地理的条件によって大きく異なります。反対に、排出量の少ないS&P500の金融会社は、炭素価格付けのリスクにさらされる度合いが総じて低くなりますが、物理的な気候変動のリスクが高い資産を保有していることもあります。
他の部門もリスクの上昇に直面しています。たとえば、不動産投資信託(REIT)は、海面上昇による中程度または高低度の浸水リスクにさらされており、資産価値を維持するための効果的な計画と洪水緩和策が必要であることが明らかです。同様に、S&P500企業が所有する採掘施設は水ストレスのリスクが高く、運用効率と運用コストに大きな影響が及ぶ可能性があります。
結局、これらの部門にとって、そして私たち全員にとって最大のリスクは、何も行動を取らないことなのかもしれません。
(この記事は、2020年1月に掲載された世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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