ただ、発表された日米首脳共同声明と、ちょうど1カ月前の3月16日に発表された日米の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)共同声明とを比べ、日米双方の関係者の証言をたどると、台湾問題と人権問題を巡る日本側のまずい対応が浮かび上がった。本当に菅首相はワシントンを訪れたのだろうか、と言いたくなるほどだ。
まず、台湾問題。2プラス2共同声明は「(日米の)閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」とし、首脳共同声明は「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とした。
このうち、2プラス2の声明だが、4月5日付のコラム〈「台湾有事」で不戦の誓いが吹っ飛ぶ? 運命の決断、誰が決めたのか〉で伝えたとおり、日米ともに全く争うこともなく、すんなり記載が決まった。菅首相ら首相官邸も、この表現に異議を唱えなかった。
ところが、中国が猛烈に反発した。王毅外相は5日の日中外相電話会談で、米国を念頭に「一部の偏見を持った国にあおられないよう望む」と主張。12日には、中国軍戦闘機などのべ25機が台湾の防空識別圏に進入した。
これに対し、日本政府内では、2プラス2声明について、「日本が台湾有事に介入する意思を示したという意味ではない」(政府関係者の1人)として、当惑する雰囲気が広がった。そこで、首脳共同声明には、過去に何度も日本政府が使ってきた「両岸問題の平和的解決を促す」という言葉を追加したという。
次に、人権問題。2プラス2共同声明は「(日米の)閣僚は、香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有した」とした。首脳共同声明も「日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する」とした。全くといって良い同じ表現なので、一見何も問題がないように見えるが、実はそうでもない。
日米の複数の関係筋によれば、2プラス2共同声明でこの文言を入れるように迫ったのは、米国ではなく、日本だったという。米国側はむしろ、「安全保障文書なのだから、人権に関する記述は要らないのではないか」と指摘したが、日本は強硬に譲らず、そのまま盛り込まれたという。
これについては、背景に自民党外交部会への配慮があったようだ。自民党外交部会は2月に人権外交プロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、中国やミャンマーの人権問題などで、日本政府のより強硬な対応を求めている。2プラス2共同声明に人権を巡る記述を盛り込むことについて、首相官邸はやはり異論を唱えなかったという。首脳共同声明も、2プラス2共同声明の表現をそのまま使った。