台湾問題も人権問題も、日本が無視して良い問題ではない。ただ、政治の強いリーダーシップなしに、生半可な覚悟で突っ込めば、大やけどをする非常に難しい問題でもある。
日米は今年中に、もう一度2プラス2を開くことで合意している。そこでは、具体的な成果を出さなければならない。菅首相は日米首脳共同声明で「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」と約束してしまった。
でも、実態は何も進んでいない。安倍晋三首相(当時)は昨年9月、「ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針」を年内に定めるよう求める談話を発表したが、方針は決まっていない。
複数の政府関係者は「本来は、2013年の国家安全保障戦略を改定し、日米防衛協力の指針(ガイドライン)も改定し、防衛計画の大綱をも改定しなければいけない。何も動いていないのに、2プラス2で打撃力や抑止力の強化をうたって良いものだろうか」と語る。
人権問題もしかり。例えば、日本は北朝鮮による日本人拉致問題について欧米社会に「深刻な人権問題だ」と訴えてきたが、北朝鮮に住む人々の人権問題を取り上げたことはほとんどない。日本には、欧米のように、人権を理由にした制裁を実施する根拠法もない。
中国やミャンマーの問題を機会に、人権問題への関心が高まるのは大いに結構だが、人権外交は「善か悪かという議論になりやすい。外交的な妥協が難しく、対立を逆に深める危険性も帯びている」(政府関係者の1人)。人権問題への信念もなく、やみくもに「中国憎し」や「愛国者としてのアピール」のための材料探しで人権問題を扱うと、中途半端な結果を招くことになりかねない。
むしろ、米国は「全体主義の中国対民主主義の米国」という構図をつくるため、人権問題をアピールしたい。日本が人権問題にのめり込めば、米国は次は人権に基づく制裁措置などを求めてくるかもしれない。今の首相官邸に、中国による経済的なハラスメントに耐えて、人権問題をやり抜く覚悟ができているようには見えない。
菅首相は帰国後、すぐに国会で日米首脳会談の成果を報告する。
日米関係筋によれば、首相は今回の訪米日程の間、政治家としての人生や日本経済などを語るときは雄弁だったが、外交案件になると、トーキングポイント(応答要領)から目を離すことがなかったという。菅首相は、自分がいかに重大な話し合いをしてきたのか、本当に理解できているのだろうか。
帰国した瞬間、菅首相の頭のなかは、新型コロナウイルス対策や東京夏季五輪の開催問題、4月末の補欠選挙、衆院解散などの問題で一杯になるはずだ。
政府関係者の1人は「菅政権のポートフォリオに、果たして外交が入っていると言えるだろうか」と心配そうに話した。
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