中国のデジタル通貨発行は、「貨幣の創造的破壊」の始まりだ

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ウォール・ストリート・ジャーナルは「中国、主要経済圏として初めてデジタル通貨を発行」と題した長文記事のなかで、中国政府のイニシアチブがもたらすであろう影響を論じた。デジタル人民元には、米国による中国企業への経済封鎖を回避しうるという戦略的可能性があり、また中国の国際取引における地位を向上させ、自国経済のリアルタイムのモニタリングに役立つ可能性がある。

多くの人々は「ステーブルコイン」、つまり、特定の資産(または資産バスケット)に価値が紐付けされたデジタル通貨とは、規制当局(中央銀行またはその他の公的機関)によって中央集権的に管理された暗号通貨の導入に向けた第一歩だと見ている。

こうした通貨を導入することで、ユーザーの「進化」に関するより深い理解が得られるだろう。ユーザーはデジタル通貨に、紙の通貨と同様の価値の裏付けがあると考えがちだが、現実にはこうしたデジタル通貨の裏付けは、制御アルゴリズムに基づいて一定量のユニットを発行する暗号通貨に比べると、より脆弱で恣意的だ。とりわけパンデミック後にはそうなることが予想される。

「暗号通貨を制御する数学的アルゴリズムを信頼すること」から、「通貨の価値を操作する能力をもった中央集権的当局を信頼すること」に変わることは、多くの人々が考えることが難しいと感じる信念の飛躍を必要とする。そうした「価値提案」は、多くの人々にとっては、まだ受け入れがたいものだろう。

中国が主要国として初めてデジタル通貨を導入することに、どんな意味があるのだろう? 第一に、米国が自国の支配下にあるSWIFT送金システムに基づいて、経済制裁や経済封鎖を実施したり、取引情報を取得することは、ほぼ不可能になる。中国政府はこの取り組みを、自国通貨の主権を拡大し、米国政府の決定から国益を守るためのものだとしている。

だが現実には、この概念はさらに広範な影響を及ぼす。デジタル通貨をシステムの外部に創出するということについて、必要な条件は、それを発行する(銀行口座すら持っていない)中央銀行の参加だけだ。そして、こうしたデジタル通貨は、世界経済のなかで存在感を増しつつある中国企業との、仲介なしの効率的な取引を可能にする。

これにより、現状では国際取引の88%を占めるドル建て取引の圧倒的なシェアに食い込んでいくはずだ。中国が今後計画している主要な物流・貿易ルートの整備が進めば、人民元ベースの取引はさらに理にかなったものになり、世界における中国の経済的優位性の拡大はさらに強固なものになるだろう。
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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