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2021.04.18

「創造性」は天才の特権ではない。変化の時代は「進化思考」で生き残れ

『進化思考ー生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(4月21日、太刀川英輔著、海士の風刊)


「創造」それは、ボケとツッコミの往復


「創造的になりたい、創造性を発揮したい」と思う人は多いだろう。「創造性は天才だけに許された特別な能力ではなく、本来、誰もが持っているものです。当たり前だけれど」と太刀川氏は話す。

人類は自然の一部であり、創造性も自然現象の一部である。その自然現象の中で唯一、われわれ人類の創造性と似た構造を持つのが「生物の進化」だ。そして生物の進化は、「変異と適応」の繰り返しによって起こる。太刀川氏はここに創造性の構造のヒントを発見した。

創造性を真剣に探究してみたところ、そこには進化的な構造があることに気付いたのだという。それが「変異と適応の往復」であった。それはバカと秀才の往復といってもいいし、ボケとツッコミの往復とも言えると太刀川氏は言う。脳内でも、発明でも、アートでも、デザインでも。そして、生物の進化でも。

あらゆる学問や知は創造性のためにある。「創造力」こそが社会形成の発端を作ってきた、と言っても過言ではないかもしれない。だとすれば、その探求には計り知れない価値がある。

「スティーブ・ジョブズは、『ハングリーであれ、愚かであれ。』と言いましたが、この言葉って、変化と適応のプロセスにも叶っていると思っています。適応ってわりと、ハングリーでないとできないんですよね。選択圧に耐えるためにかなり磨き込む必要がある。一方で変異って『エラーを起こすこと』、つまりバカになることなんです。ジョブスもこの往復を意識していたかもしれません」(太刀川氏)

「変異」によって図らずも無数のアイデアが生まれ、そうしたアイデアが「適応」により自然なかたちで選択されていく。変異と適応を何度も往復することで、変化や淘汰に生き残る概念が生まれる。その結果、本質的な願いを具現化するイノベーションを起こせるようになる。非常にシンプルな構造だが、確かにイノベーションと生物の進化の成り立ちは非常によく似ていることがわかる。

「変化と適応の往復をすれば、自然な創造が生まれる。たとえば『生物の進化』だってそうです。そして言語を獲得した人間は進化に似た能力を得た。そうして、われわれはこれまで、頭の中で進化の真似を言われなくてもやってきたのではないかと思います」(太刀川氏)

起こした変化は起きた時点で客体化する


驚くほど速く変化する時代の中で、あらゆるものが刹那のうちに消えていく。そうしたなかで今の社会では「長い間生き残るものを生み出したい」という欲求が満ち溢れているというのが太刀川氏の考えだ。

「変化を生もうと思ったときに、生もうとする対象は自分より大きいことがほとんどです。国や街、会社を変えるとか、家族の関係性を変えるとか。でも、自分よりも大きなものは変えづらい。そのときに、自分自身も含めた状況を客体化することはすごく重要です。どういう流れが起きていて、それぞれの立場の存在がどう思ったのか、そこに至る歴史的背景は何か、といったことを紐解いて確認する。そこでは、解剖学や系統学、生態学など、生物科学が培った観察の手法が有効です。

そしてエラーを使いこなして自分の中に偶発性を飼うことで、無数の代案を短時間に出す自信をつける。創造も進化も、こうした変異と適応の繰り返しです。生まれようとしている関係性を観察して、それを自分の創造性に活かすことで、自分よりも大きなものに変化を流すことが初めてできるようになります。なぜなら、流れに沿った変化は、もう自分だけの声ではないですから」(太刀川氏)
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取材・文=長谷川寧々 編集=石井節子

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