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2021.04.17 11:30

高体温で差別された青年 精神科医の私が「分断ウイルス」と呼ぶ理由 


ところが昨年3月の健康診断で体温が37.4度を示した。その後継続して測定すると、朝は平熱でも午後にかけて上がる。37度5分を超えることもしばしばで、雇用先からコロナを疑われた。しかし、症状は熱以外になく、咳や鼻水、味覚障害などはなかった。大きな総合病院2カ所で検査したが異常なし。解熱剤を飲んでも効果なく、担当医の診断は「機能性高体温症」。全国で約1万人いるとされる。

言葉での説明が苦手な高久さんの代わりに父親が口を開く。

「会社で子どものこと熱下がらんと言ったら、上司は何も言わないけど、仲間内で敬遠されて食事も誘われない。雨天だと38度になるけど、起きがけは37度。何とかならんですか」

買い物に行ってもサーモグラフィーに引っ掛かって入店お断り。どこも37.5度を基準にしている。結局、休職となり、内科医から心療内科の当院を紹介された。

医者が手を尽くして調べ、コロナではないと診断しても、多くの人はなんとなく、「37.5度以上」という数字に惑わされ、近寄るのをためらう。万が一を考えたらという心情は分からないではない。しかし、こうした消極的姿勢の積み重ねが、差別につながっていくと考えるのは、おそらく私だけではないだろう。

この症例、どうすると体温は下がったか


こんな愚痴を言いたくなるのは日常茶飯だが、大事なのは目の前の患者がよくなること、これに尽きる。では、どうすればよいのか。

体温は脳の奥、視床下部という場所に調節中枢があり、様々な理由で上昇する。原因で代表的なのが、感染・悪性腫瘍・膠原病の3つ。癌に代表される悪性腫瘍は進行すると発熱物質が放出される。リウマチなどの膠原病では、体内免疫の働きが乱れ、高体温になる。新型コロナウイルスなどの感染ではやはり免疫が発動して熱が出る。これらに対応するには熱中症のように外から冷やすだけではだめで、乱れた体温中枢に働きかける必要がある。

通常は解熱剤を使用して一時的に体温を下げ、その間に元の病気の治療をするのだが、「機能性高体温症」では高久さんのようにうまくいかないことがある。

そこで私が処方したのが補中益気湯という漢方薬だ。これは、有効という研究結果が出ている。1日2回、朝夕の食前に飲んでもらうと、2週間で効き目が出た。またしても、無言の本人の横で父親が言う。

「朝は36度台になってきた。念のため、エイズも調べられたが、異常なし。たまに飲み忘れると熱が出るけど、今は仕事には行っている」

治療は漢方ばかりではない。発熱の対応で一番大事なのは、まず、慢性炎症など体の病気を見逃さない事だ。そのうえで、38度以上になることも多い小児の機能性高体温症には、うつ病の薬の代表であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の効くことが多い。それだけ、ストレスが関係しているということだろう。

一方で、成人にはSSRIだけでは効果は薄いようだ。南多摩病院の國松淳和医師は、高体温となる要素が複数ある成人では薬単独より、「心身症的アプローチや漢方治療のほうがいくぶん合理的」と分析している。〔心身医学2020年第60巻3号〕
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文=小出将則

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