高体温で差別された青年 精神科医の私が「分断ウイルス」と呼ぶ理由 

37.5度という体温の基準。果たしてこれは全ての人に当てはまるのだろうか。(shutterstock)


大阪府はこの春、首都圏から新型コロナウイルスが流入するのを防ぐため、JR新大阪駅にサーモグラフィーを設置し、乗客の検温を実施した。個人的には実効性を検証してほしいところだが、こうした対策は、機能性高体温者に対するストレスを増し、彼らがより困惑する状況となる可能性を考慮すべきだろう。

個人差、社会的格差、専門家間も。人々を分け隔てるウイルス


人には個性がある。姿かたちがみなそれぞれのように、体の内部も十人十色だ。車の排ガスや工場の煙でぜんそくになる子がいれば、平気な子もいる。

体温は血圧、脈拍、呼吸数と並んでバイタルサイン(生命徴候)と呼ばれる。生きていく上で一番大事な要素だが、それすら健康的な範囲でのばらつきがある。それを37.5度というひとつのモノサシで分ける“副作用”にはつねに自覚的でありたい。

新型コロナウイルスの場合、大半の若者には影響が少ないのに、高齢者や糖尿病、肥満、高血圧などの持病を持つ人にとっては致命的なことがある。海外では白人より、ヒスパニック、黒人のほうがコロナに罹りやすい疫学データが出た。これは生物学的な人種差以上に、経済状態など社会的格差が関与すると見られている。健康な人と患者、富める者と貧しい者の「境界」がコロナでさらに広がっていく。

ワクチンにしても、イスラエルやイギリスなど接種率の高い国では患者数や死亡率が激減した一方、日本国内ではようやく高齢者への接種が始まった。だが、SNS上ではウイルスのmRNAを利用したワクチンの安全性に疑問を呈する医師がいる。専門家の間でさえ、賛否の分かれる事態。新型コロナウイルスは人々を分け隔てる存在になっている。まさしく、私が新型コロナを「分断ウイルス」と呼ぶゆえんである。

ウイルスは医学上、生物と無生物の「境界」に位置する。感染を媒介する宿主がいて、初めて増殖することができる。道端に転がっている状態で勝手に増えることは、無い。ウイルスだけでは生きられないのだ。

今回の新型コロナウイルスは、もともと中国に生息する動物の体内に留まっていた種類が変異を起こしてヒトに広まったと考えられている。候補動物の筆頭が、コウモリだ。今こそ臨機応変な「黄金なバット」の出番ではないか。私たち人間が自然との調和を乱し、地球環境を破壊してきた「ツケ」が回ってきたのか。コウモリに尋ねてみる必要がありそうだ。


新連載:記者のち精神科医が照らす「心/身」の境界
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文=小出将則

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