私はいったい何が好きなのか。自分が共感する「感覚」を研ぎ澄ませ

shutterstock


バリュー型の人にとっては、世の中をよくすることが唯一の目的ではない。組織の規模は大きくなくてもいいし、成長しなくてもいいかもしれない。成長が目標ではなく、楽しいことをやっていきたいという気持ちの方が大きい。時にはビジョンにも共感するが、根底にあるのは共感する「バリュー」だ。組織の大きさも気にしない、特定の組織に参加しない、フリーランス的な働き方になる。

事業としては、成長はあまりしなくても、バリューに共感する人々が集まって、「ゆるゆると面白いことをやっていこう」というようなプロジェクト・ベースが増える。一生を懸けてビジョンをみんなで実現するというよりは、面白いことをやることが優先。たまにこのビジョンが面白そうだから、プロジェクトベースで行い、うまくいったら解散してもいい、という考え方もある。

左下のCの部分は、バリューもビジョンもないので、個人でやるところになる。もともと日本企業はメンバーシップ型雇用だったので、バリューもビジョンも浸透していなかった。しかしグローバルな時代になり、ジョブ型雇用が始まると、右上が重要になっており、多くの企業がビジョンやバリューに注力している。左上のAは、カリスマのビジョンが強いスタートアップなどだ。

これから注目のDと同時に、Cも増えてくるだろう。共感しないで1人でやるフリーランスや自営業という形態だ。前からあったが個の時代になると増えてくるだろう。その人たちが共感性をもつと、プロジェクトチームをつくって、右下に移動することもありうる。

バリュー型で一番重要なのはバリューを言語化すること。バリューは自分が大事にしたい、いいなと思っている「自分の感覚」なので、想像以上に言語化できていない。例えば、この人と共感性が高いなと思っても、その共感性を正確に言語化することは難しい。自分のバリューを言語化できると、自分の目指すべき方向感をつかむことができる。

自分はいったい何が好きなのか。企業に勤めて毎日働いていると、そんなことを考える暇がない人も多いだろう。人間の思いや感覚というのは、日本語といった言語で簡単に規定されるものではない。これからは暗黙知の形式化の時代だ。自分が大事にしていること、いいなと思う感覚というのはなかなか形式化できていないものだが、それを形式化することで、その人の強みになるはずだ。


いりやま・あきえ◎早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学院修士課程終了、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。米ニューヨーク州立バッファロー校ビジネススクール助教授などを経て現職。

text by Iriyama Akie 入山章栄 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事