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人体に無害な菌を培養し、回収した胞子をレーヨンに付着させた、この布が「エイジングシート」だ。エイジングシートで包んだ肉には、熟成に必要な菌が短期間で増殖する。これにより、腐敗を防ぎながら熟成、かつ肉のドライエイジングが促進されることで、通常熟成日数の3分の1以下となる20~30日の短期間で安定的に熟成肉を製造することができるのだという。

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左:エイジングシートの上にのせた豚肉 右:エイジングシートを巻いた豚肉

また、エイジングシートに用いる菌には抗酸化作用もあるため、肉の部位や大きさなどにもよるが、1週間から10日程度、従来より熟成肉の保存期間を長くすることが可能になるという。現在、同製品は肉や魚を取り扱う飲食店やメーカーなどおよそ100店舗に普及している。

「生鮮」での保存期間は


エイジングシートが転機を迎えたのは、世の中で「フードロス」という言葉が注目されるようになった2019年頃だと跡部氏は話す。

「フードロスという観点からエイジングシートを見直してみたところ、『腐りづらくさせる』という効果は、まさしくフードロス削減につながるということに気づきました。そこで、生鮮状態をどれだけ維持することができるかに重点を置いて研究したところ、エイジングシートを巻けば『生鮮状態を5日以上保つことができる』ということがわかりました」(跡部氏)

また、研究開発を進めていくなかで、エイジングシートは魚にも使用できることがわかった。今後は、肉や魚だけでなく、乳酸品、穀物類などの食品に対しても活用できるよう開発を進めているという。

「物流」にも変革を 飲食における新しい価値観とは


同社は「世界中の食品が、世界の隅々まで、より安全かつ美味しい状態で届く」ことを最終目標に掲げており、跡部氏は、エイジングシートが持つ菌の力を活かして、物流網の弱い場所にもより良い状態の食品を送ることに貢献したい、と話す。

「冷蔵や薬品といった機械的、人工的なものでどうにかしようと考えるのではなく、『菌』という天然の力によって食の保存期間を延ばしていく。こうした価値観を、より多くの人に届けていくことがわれわれのミッションだと考えています。自然に寄り添い自然と対話をし、自然の力を借りることで、より良い価値観が創造できるということを証明したい」(跡部氏)

日本の飲食店の価格競争は熾烈を極め、「安くて美味しい」が当たり前な価値観として定着している。跡部氏の話を聞いて、今後は質が高く、持続可能な食を提供する店や企業に信頼が生まれ、人々の支持が集まる。そして、そうした商品には相応の対価を支払う、という当たり前の価値観を、食の分野でも取り戻す時代は近いように感じた。

取材・文=長谷川 寧々 編集=石井 節子

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