子どもたちは何のために「学校」で学ぶのか? 学びの本質を問う

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教育の理論家として、苫野さんは「自由を相互に承認し合える市民社会をつくりたい」、実践者としての宮下さんは「平和な社会をつくりたい」、それが教育の目的だと話した。これを受けて、汐見さんは、教育と社会の関係について次のように解説した。

「教育について250年以上前にまとめたフランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーも、150年以上前にまとめたジョン・デューイも、政治思想家でもあり、よりよい社会をつくるにはどうすればよいかを深く考え続けました。本当の民主主義を教育によって実現しようとしたのです。

教育は常に、どうすればその子どもが、そしてすべての人が幸せになるかを考える必要があります。すると、必ず社会の問題にたどり着く。社会のあり方を教育のなかで追求していく姿勢がないと本物の教育思想にはなりません」

これからの学校現場において必要なこととして、宮下さんは「どのような教育をしたいのかというビジョン」を学校全体で共有し、「どう実践するか」という手段や方法については各教師に任せることができれば、同じカリキュラム下でも教員はいきいきと仕事に取り組むことができるとも話した。

教育の現場で行われていることは、会社や組織のマネジメントにもつながる。そして、私たちの社会を変革することにも確かにつながっているのだ。

親として子どもたちに接し、大人としてこの社会を生きる私たち自身も、本来の「教育の目的」をあらためて捉え直し、子どもと社会、自身と社会をひとつながりのものだとして考える視点が必要なのだろう。

その視点の転換こそが、新しい時代を生きていく私たちにとっての大きな課題なのかもしれない。

【連載】人はなぜ「学ぶ」のか?【全5回】
1.災害や不登校 日常が壊れたとき、「学び」とどう向き合うか
2.子どもたちにとってのサードプレイス。自宅と学校以外の「居場所」が果たす役割 
3.遅れをとる日本の「インクルーシブ教育」。その本質を見つめ直す
4.子どもたちは何のために「学校」で学ぶのか? 学びの本質を問う
5.子どものいのちは輝いているか? 教育の変わり目に感じたこと

連載:教育革命の最前線から
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汐見稔幸
(しおみ・としゆき)◎東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。1947年大阪府生まれ。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。21世紀型の教育・保育を構想中。NHK Eテレの番組などにも出演。保育、子育て、教育などについてのわかりやすい解説には定評がある。

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苫野一徳
(とまの・いっとく)◎哲学者、教育学者。熊本大学教育学部准教授。公教育の本質は「自由の相互承認」の実質化にあるとし、その具体的なあり方として「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」を提唱。著書に「どのような教育が『よい』教育か」(講談社選書メチエ)、「『学校』をつくり直す」(河出新書)、「教育の力」(講談社現代新書)など多数。

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宮下 章
(みやした・あきら)◎横浜国立大学教育学部卒業後、横浜市の公立小学校の教員に。教育実習当時から「目の前の子を楽しませる」をモットーに、ライブ感あふれる授業を展開。教員として今年で35年を数える。「応え合う」教室をめざし、アイランド型座席、立学などの取り組みを行う。学校外からも積極的にゲストティーチャーを迎え、100本以上の「世の中と繋がる授業」を行う。

文=太田美由紀

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