SPAC(特別買収目的会社)を活用した株式上場は、2020年に続き、2021年も活況を呈している。PwCの報告によると、2021年の最初の3カ月間で、約300のSPACが公開市場に登場し、昨年全体を上回る約900億ドル(約9兆8700億円)の現金を調達した。しかし、この状況はSECが要求している会計処理の変更で激変する可能性がある。
会計事務所や投資銀行、法律事務所の専門家らがフォーブスに語ったところによると、彼らは政府が今後、SPACのワラント(新株引受権。特定の価格で株式を購入できるオプション)の分類をバランスシート上の資本から負債に変更すると予想している。
SPACビジネスにおいて、ワラントは投資家が多くの資本をリスクにさらすことなく潜在的な利益を得られる福袋の役割を果たす。
フォーブスが取材した関係者によると、SECはワラントの扱いについて曖昧なままだという。会計事務所は政府から明確な説明を受けるまで、新規の案件に着手しないため、SPACの新規募集はすべて停止している。会計処理が変更されると、財務諸表や報告書の書き換えが必要になるため、手続きの遅延や新たなコストが発生する可能性がある。
SECの新ルールは、SPACを用いた上場以外にも影響を及ぼす可能性がある。専門家はフォーブスの取材に、SECが数百のSPACに財務諸表の再作成を強いることで、巨大な混乱が生じると述べている。
専門家の中には、SECが意図的に業界に混乱をもたらし、高騰するSPAC市場を一時的に停滞させているのではないかと疑う人もいる。SECはコメントを控えている。
SECは4月12日の声明で、SPACのワラントの会計処理に関する懸念を示し、発行者に対し財務諸表の修正の必要が生じる可能性を警告した。SECは企業に対し、ワラントの付与方法やその価値が原株の業績のみに連動するかどうかによって、ワラントを負債に分類する必要が生じることになるとアドバイスした。
関係者によると、SECの調査は、あるSPACの発行者が提出書類に関する指導を求めたことがきっかけで始まったという。新たなガイダンスにより、ほとんどの発行体は会計処理を見直す必要を迫られる見通しであり、財務諸表の更新が必要になる場合もあるという。
新ルールでボラティリティが高まる懸念も
ただし、今回のSECの会計見直し要請は、さらなる要求の一部なのかもしれない。ここ数週間、SECはSPAC取引のリスクとその複雑さを指摘しており、3月には有名人が支援するSPACに潜むリスクについて警告を発していた。4月8日には、SECのコーポレートファイナンス部門のジョン・コーツが、発行者が虚偽の記載を行った場合は責任を負うことを念押しした。また、SPACによるIPOは、法律や情報開示の負担が少ないという通説を払拭しようとした。
法人税専門家のロバート・ウィレンスは、会計処理の変更により、ただでさえジェットコースターのようなSPACの世界がさらに波乱に満ちたものになる可能性を指摘した。というのも、ワラントを負債として収益に計上すれば、SPACが報告する利益の変動がさらに大きくなる可能性があるからだ。
ここで最も気になるのは、新規のSPACの立ち上げの遅れが、投資家の熱意をそぐことになるかのか、それとも新たな需要の爆発につながるかだ。ここ1年間の市場の動向を考えると、それは誰にも予測不可能だ。