──この提携によって、東大が吉本から吸収してほしいと期待することは?
やはり、コミュニケーションの能力や技法ではないでしょうか。
「対話」と「共感」が、東大の新総長になった藤井輝夫先生のキャッチフレーズになりつつあるのですが、東大はこれまで、社会との対話が十分でなかったかもしれません。社会に対する発信力も含めて、コミュニケーションの方法については、改善の余地があるのではないかと思います。
吉本興業のエンターテイナーのみなさんは、オーディエンス(お客さん)の求めることや雰囲気をよく感じ取らないと成功できないはずですから、そこには東大が学ぶべきことがたくさんあるのではないかと思います。
──芸人さんが得意とするコミュニケーションのなかで、特に得たいと思う力は?
場の空気を読む能力でしょうか。共感してもらう力と言い換えてもいいと思います。劇場での一体感のように、我々もお客さんやオーディエンスとの一体感の作り方を芸人さんたちから学びたいですね。
これまで私たちも、学生に向けた授業や講義はもちろん、各地で公開講座や講演会などを行ってきました。そういう場でのコミュニケーションについて、もちろん伝える努力はしているつもりなのですが、一方通行になっている可能性があるかもしれないという反省があります。オーディエンスや社会が我々に何を望んでいるかを、相手から学ぶという姿勢が足りず、そういう努力を若干怠っていたところがあるかもしれない。
授業や講演も、いわばお客さんを前にした「ライブ」ですから、そのコミュニケーションの手法をエンターテインメントのプロに学ぶのは理にかなっているとも思います。
優れた講義や授業には、講師とオーディエンスの間に、必ず知識の伝達以上の何かが伝わっているものです。Zoomの授業だけでは伝わらない、その場にいないと伝わらないことが絶対にあるのだと思います。
こうした「対話」と「共感」がこれからの大学の在り方としてはとても大事で、社会と共に、一緒になって成長していくというのが大学の使命になっていると感じます。東大の学生や教職員も含めて、社会との対話の能力を高めていけたらいいですね。
──吉本興業の提携で、改めて見えてきた東大の長所と短所は?
提携したことで見えてきた長所ということであれば、どちらにも徹底した「プロフェッショナリズム」があるということ。「知のプロフェッショナル」である点は東大の長所だと思います。
一方で、吉本さんが「エンターテインメントのプロフェッショナル」であることもよくわかってきました。笑いをつくるために芸人さんたちは並々ならぬ努力をしている。エンタメと知と、ジャンルは違うけれど、そこにエネルギーを注ぎ続けるプロであるというところは、共通点だなと思います。
そのうえで、我々の短所を考えてみると、先ほどの話とも通じますが、新しい知識や技術をつくりだそうとするエネルギーに比べて、社会に発信したり、還元したり、社会が何を望んでいるかを感じ取ったりすることに費やすエネルギーが、少し足りなかった点でしょうか。