「講義はライブだ!」 東大が吉本興業と本気で組む理由

東京大学 相原博昭副学長(吉本興業本社にて)


──好きな芸人さんはいますか? 好きな理由は?

中川家さんが好きですね。私は、あの人たちの観察力は天才的だと思っています。

私の専門の物理の世界では、実験における観察や観測が大切なのですが、彼らは人間の特徴を観察している。これはなかなかできるものじゃないです。

客観的に自然の現象を観測、観察して、まずはありのままを見るということが非常に大切です。しかし、作業をしているうちに、だんだんと自分の考えやバイアスが入ってきてしまう。だから、まずありのままがしっかり見れているかというのは、すごく重要なことなんです。

私はカメラも好きなのですが、レンズを通すと、歪んで見えてしまうことがあるんですよ。それは科学としてはよくない。もとにあるものを忠実に記録するというのが大切。そのうえで、それをどういう風に解釈するかというのがあるわけで、そこの元のところがきちんとできていないと、結果もあまりいいものにならないと思います。

物理の世界では、ありのままを見ることをトレーニングするのですが、エンターテインメントの世界の人たちも、きっと名人になるにはそういった訓練なり経験を積んでいるのではないかと想像します。

正確に同じ現象を見ていても、違う結論を出すようになったりします。解釈が違うからですね。それが「個性」かもしれません。得た情報を取捨選択して結論を出すところに、センスの違いが出てくるんだと思います。

人材育成や学生と関わる上でも、「ありのままを見る」のはとても大切なことですが、なかなかに難しい。そのことに気づかされました。

──吉本興業との提携が東大に何をもたらすか?

「人材育成」について学ぶことが大きいです。人の価値を高めるための手法ですね。

吉本興業の最大の資産はもちろん人間だろうと思います。タレントさんや芸人さんの価値を導き出したり、つくり出したり、育てたりすることが大きな仕事ですよね。

それをそのまま学生や研究者と置き換えれば、東大のやりたいことと同じです。大学にとっても最大の資産は人なので、そこから価値をつくり出し、そのひと自身の価値を高めていくわけです。吉本興業も東大も、人を育てる組織であるという点は共通しています。

今まで、エンターテインメントのプロの人たちと協働したことはなかったわけですから、東大・吉本コラボレーションから、なにか新しいものが生まれるに違いないと思っています。

文=松崎美和子 写真提供=吉本興業

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