具体的な取り組み案としては、1.地方創生に関する事業開発、2.健康促進に関するお笑いコンテンツの開発、3.世界の笑いを研究、学問化、4.デジタルテクノロジーを用いたエンターテインメントの社会実装などが予定されている。そのプロジェクトの第一弾企画として、3月には、オンライン特別講義シリーズ「東大吉本対談〜言葉力が世界を変える?〜」が開催され、ピース又吉直樹さんと佐藤健二教授の対談が行われた。
なぜ、東京大学は吉本興業とこのような連携を開始するに至ったのか。東京大学の相原博昭副学長に話を聞いた。
──連携を開始するに至った経緯を教えてください。
3年くらい前に、吉本興業の大﨑洋会長が東大の五神真総長を訪問されました。そこでお互いが共感して、会話が大いに盛り上がったことがきっかけです。
私も同席していたのですが、印象に残ったことが2つありました。1つは、大﨑会長が、吉本興業は、エンターテインメントのプロを育てる「人材育成」の役割があるとおっしゃっていたこと。もう1つは、吉本興業がSDGsに関する活動を積極的にされていたことです。
特に印象的だったのが、所属されている芸人さんたちを全国に派遣して、各地域のことを広く世の中に発信する「住みます芸人」のお話でした。東大も社会連携や地域連携を強化したい、東大が社会にもっと直接に関わっていくことを目標にしようと考えていたので、こういうやり方もあるのかと思ったわけです。
確かに東大と吉本は違う世界に存在しているように思われますが、自分たちが何を一番大切にするかといった「コアバリュー(基本的価値観)」には、共通するものがある。あまりにも組織が違うので、具体的にどんなことを一緒にできるかを考えるのには時間がかかりましたが、方向性は一致していると思います。
私たち東大の人間は、しばしば「上から目線」だと言われてしまうんです。SDGsにしても、教育にしても、こちらには決してそのようなつもりがないのにそう聞こえてしまうと。民間企業の方にSDGsで連携しましょうと提案しても、相手側の社長さんから「上から目線」に聞こえると言われたこともありました。
そういう経験をして、やっと我々も気づいたわけです。ずっと教室で教壇から教えているだけだからそう感じさせてしまうのではないかと。
大﨑会長と五神総長との会談の内容を若い教授陣に話した時に、このプロジェクトが「権威」「上から目線」という東大の古いイメージを変えるきっかけになるのではないかという声が多く上がりました。それが始まりです。