遅れをとる日本の「インクルーシブ教育」。その本質を見つめ直す

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同じ悩みや課題を持つ仲間と取り組む「自分研究」


こうしたインクルーシブ教育の考え方は、特別支援学級にも学ぶところは多い。東京都内の公立小学校・特別支援教室(通級)に長く在籍し、3年前から自閉症・情緒障害特別支援学級担任を務めている森村美和子さんは、「子どもの好きやワクワク、子どもの世界を楽しみながら学びを進めています」と語った。

自閉症・情緒障害特別支援学級とは、校内の特別支援学級に籍を置きながら、本人のペースで通常の学級に参加するクラスのことだ。通常の教育課程と同様、教科学習、クラブ、委員会や行事などにも参加し、通常のクラスとの交流も自分のペースでできる。

また、授業では、それぞれにやりたいことに取り組む時間もある。タブレットを使いこなしプログラミングで作曲やゲームづくりをする子どももいれば、理科の実験に集中して取り組む子ども、さまざまな気持ちをイラスト化してカードをつくる子どももいる。目の前の子どもたちが主体となり、その意欲を汲み取りながら学習プランを組み立てられるよう、柔軟に教科学習を取り込んでいる。

こうした自由な学びに集中するためには、教室環境のデザインも大切だ。仕切りを立てたり、自分の好きなものを周りに置いたりしながら、それぞれ自分が落ち着いて学べるスペースをつくる。椅子の形もさまざまで、体をしっかりとホールドできるもの、ゆらゆらと揺れるもの、バランスボールなどがあり、自分で選ぶことができる。教室内にリラックスできるスペースを子どもたちと一緒につくることもあるという。

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教室環境のデザインを自分で選び、個別の学習スペースなども工夫してつくることができる

子どもたちは「自分研究」にも取り組む。これは、同じ悩みや課題を持つ仲間と「困っていること」を共有し、どう対処すればいいかを研究するもので、東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎さんによる「当事者研究」をもとに、森村さんが子どもたちと行っているものだ。

「研究したから不安がなくなるというわけではありませんが、不安なことや苦手なことは誰かに相談すれば、いい対処法があるかもしれない、そう考えられるようになっていきます」(森村さん)

ある子どもは、自分の「しゃべりすぎる」という特徴を、「ペラペラノドン」というキャラクターに置き換えて研究を進めた。すると、ストレスや興奮のせいで暴れることがわかったという。それをクールダウンするには読書をする、先生に「ストップお札」を出してもらうなどの対処法を考えることもできた。

対処法を通常学級のみんなの前で発表したところ、同級生から「自分の困っていることも研究してほしい」という依頼も受けた。

このように、困っていることを表現したり、研究したり、漫画に描いたりすることで、通常の学級ではひと言も話さなかった子どもが、自分の気持ちを豊かに表現できるようになることもあるという。
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文=太田美由紀

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