川村雄介の飛耳長目


似たような反応は、ほかの分野でも多々見られる。例えば、トランプ氏や中国への認識だ。トランプ氏は、史上まれに見る凶暴で乱脈で支離滅裂な人物として報道される。超大国のトップとしてありえない、米国は失われた4年間を強いられたうんぬん。だが、これだけでは、全米を二分した得票数や根強いトランプ人気を説明できない。

中国はDX化が大いに進むなかで、ジョージ・オーウェルの『1984』顔負けの管理社会が到来して、人々は自由のない息が詰まるような生活を強いられている。人権問題は深刻だし、人々の格差が大きい、政府批判の言説は身の危険を伴う等々。しかし、大半の国民が、文革時代とは桁違いの豊かさをもたらした共産党政権に感謝し、愛国心を醸成していることにはあまり触れられない。

これらの片面的な見方をもたらす最大の存在がメディアである。テレビやラジオは終日、悲観的な報道と不安を募らせるワイドショーを垂れ流す。視聴率のためには、ネガティブ・バイアスがいちばんよいと思っているのだろう。

けれども、実は日本人は意外に冷静になってきている。

コロナ対応では、右往左往する政府、自治体にも、この世の終わりを予言するようなメディアにも踊らされなくなっている。個々人がそれぞれ最善の予防策を講じて、節度ある生活様式を定着させた。特効薬や決め手の治療法がない現下では、各人が「善管注意義務」を貫徹するのみ、というスタンスである。大半の人々は、ネガティブ・バイアスの報道はスルーするようになってきた。

米国に対しても、日本にとってのトランプ氏のよい点を評価しつつ、バイデン氏との向き合い方を練り始めている。中国には、親しくすべき分野と距離を置くべき分野の見極めをたんたんと進めている。いずれも民間会社や民間人の知恵だ。

本当に賢いのは政府でもメディアでもなく、国民だと思う。そうなると、淘汰されていくのはメディアである。多くのメディアが国民を愚民扱いしてきた。とりわけネガティブ・バイアス・メディアである。いまや、コロナ禍もあって、国民の多くがその「あざとさ」に気づいている。

元来、人々のメディアへの期待感は強かった。これに応えるのは、悲観的扇情ではない。ポジティブな慎重論と明るい批判精神を備えたメディアこそが、社会の負託に耐え、生き残っていく。

川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

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