世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

左:富士フィルター工業代表取締役社長 汐見千佳、右:カタシモワインフード5代目 高井麻記子

本誌主催のスモール・ジャイアンツ アワード2021関東・中部大会にて「GLOBAL NICHE賞」を受賞した富士フィルター工業の汐見千佳とエヌエヌ生命の特別セッションに登壇したカタシモワインフードの高井麻記子。多くの共通点をもつ二人に「事業承継のやりがいと難しさ」を語ってもらった。


━━現在のお仕事に就かれた経緯を教えてください。

汐見:私は家庭を顧みない父が苦手で、会社を継ぐ気はまったくありませんでした。意識が変わったきっかけは、高校のときのアメリカへの短期留学です。ホームステイ先の家族と話していると「親の仕事は何?」とすごく聞かれて、父の仕事を説明しているうちに、「フィルターという世の中に欠かせないモノをつくる事業を一代で築いた父って本当はすごいのでは」と気づきました。父がつくり上げたものを、次世代に残したい、と。それを私がやってみたい、と。

当時はスポーツドクターを目指していたのですが、それを諦め、父の会社に入社しました。ただ反発心は変わらず、母にだけ相談をし、入社式まで履歴書は出しませんでした。父は父で、当時は究極の男尊女卑だったので「女に継がせることはない」というスタンスでしたね。

高井:私も父は苦手でした。畑仕事もワインも嫌だったので、そこからいちばん遠い仕事に就こうと外資系のIT企業を選んだくらいです。一方で、街のぶどう畑がだんだんとつぶれていく光景はまるで自分のアイデンティティが崩壊していくように感じていました。そして、10年ほどキャリアを積んで第1子を授かった際に急病を患い、「死んでしまうかも」と思ったとき、4代続いた家業がよぎったんです。「このまま食べず嫌いで死んだら、ご先祖様に怒られる。一度やってみて、本当に無理だと思ったらやめよう」と決めました。

私も、父には何も相談せず「産休中でやることないから、事務所の片隅におるわ」と居座って、手をつけられていない書類や仕事を見つけて勝手に片付けていきました。工場のラインに入って、その場にいる人に聞きながら作業を覚えたり。やってみたら意外と楽しくて、いままで続いていますね。

二人の対談は大阪市内から程近い100年以上の歴史をもつカタシモワイナリーで行われた。

━━お二人は皆さんから、どのようなリーダーだと言われますか?

汐見:「社長はいつも笑ってますね」などと言われます。状況が同じであれば、笑っていた方が周りも幸せですよね。それと、コミュニケーションも自分からとりにいきます。「焼き肉食べたいなら走ろう!」と条件をつけて、社員を巻き込んで一緒にジョギングをしたり、普段と様子が違う社員には声をかけるようにしています。

高井:私は、ちょっとうんざり顔で「麻記子さん、またひらめいちゃったか」ってよく言われます。創業100周年のとき、訪れる人も自分たちも楽しめるイベントをやろうとアイデアを出し合い、「カタシモ100年ワイン祭り」を開催しました。このときは何千人という方が足を運んでくれましたね。

ただし、アイデアを出したり、書類を作成するときなどにも前職の知見やスキルは使わないようにしています。外から来た私が「こうすべき」と口を出しても、周囲と確執を生むのが目に見えているからです。今でも私がIT系出身だと知らない人もたくさんいますよ。

━━事業を受け継ぐうえで「変えていいこと」と「変えてはいけないこと」について教えてください。

汐見:父が大事にしてきた「Never say No」、創業からの「Think Globally, Act Locally」のポリシーは重んじています。また温故知新で「本業以外やらない」という方針が弊社を救ってきたので、変えていません。仕事の進め方や考え方は、時代に合わせてどんどん変えていますね。

高井:私は父に「なんでも変えればいいやん」と言われていて、“毎日創業”の気持ちです。ただ汐見さんと同様、受け継いできた会社の思想は不変ですね。うちの場合は「地域と共に」。昔から続く信念は守りつつ、その実現方法は時代に合わせてどんどん変えています。

━━事業を受け継いだ方々とのつながりはおもちですか?

高井:「何代目」という共通点をもった方とのつながり、農家同士の関係性、そしてワイナリー同士の結びつきが強いですね。一緒に勉強したりもしますが各人が少数派の職人なので悩みや考え方のバラエティが豊富でいつも興味深いです。

汐見:事業を継いでいる方では「ものづくりなでしこ」という女性の集まりがあります。前社長がつくってきた人脈や自身の縁を通じても、学ばせていただいています。例えば、趣味のトライアスロンなど事業に無関係な人間関係もあるのですが、創業者の方も多く、トラブル時にそのご縁に助けられることもあります。

富士フィルター工業代表取締役社長 汐見千佳

家業は宝物。
柔らかい視点で挑戦してほしい


━━家業を継ぐか迷っている方に、アドバイスをいただけますか。

高井:実は「継げること」って大きなアドバンテージなんですよ。特に農業なんて「農家の子ども」というだけで農地を所有できるんです。ですがそのアドバンテージを、昔の私も含めて、マイナスにとらえている人がすごく多い。しがらみは多いですが、昔から付き合いのあるお客さんや、長年培われたノウハウ・商品は貴重です。メリットにも目を向けてほしいですね。

汐見:私も絶対やるべきだと思います。イチから事業をつくり上げるのは大変ですし、世の中に必要な仕事だから残ってきたはず。こんな機会はほかにないし、家業は宝物です。私は承継が決まっても父から経営についての助言は一切なかったのですが、娘として父の人生を見ながら、いつの間にか「帝王学」を学んできたなと。

高井:継がないのは本当にもったいない。しんどいことも多いけど、世の中の仕事って大体しんどいですから。とりあえず一回やってみて、どうしてもイヤな部分が目につくなら、そこを削ぎ落とせばいい。先代をまま受け継ぐ必要はなくて、自分がやりたいことに寄せていってもいい。柔らかい観点で家業を見てあげてほしいです。

カタシモワインフード5代目 高井麻記子


汐見千佳(しおみ・ちか)◎富士フィルター工業代表取締役社長。一般化学、食品、医薬品、自動車、航空・宇宙、家電、IT、クリーンエネルギーなどあらゆるフィルターを手がける富士フィルターを創業した父から継ぎ、2006年より現職。

高井麻記子(たかい・まきこ)◎カタシモワインフード5代目、初の女性承継者。外資系IT企業を経て、大阪市内から程近いカタシモワイナリーで100年もの間、質の高いワインをつくり続けているカタシモワインフードに入社。

“中小企業サポーター”エヌエヌ生命「次世代への支援」
エヌエヌ生命は、新しい企業経営に挑み、日本の中小企業の未来を支えていく、後継者や若手経営者を支援します。
https://www.nnlife.co.jp/strengths/nextgeneration

意欲的な家業後継者をつなげる「家業イノベーション・ラボ」
エヌエヌ生命は、2017年、社会貢献活動の一環として、NPO法人ETIC.(エティック)およびNPO法人農家のこせがれネットワークと、家業をもつ若手後継者のコミュニティ「家業イノベーション・ラボ」を発足させました。年間さまざまなプログラムやセミナー、ワークショップなどを通じて、家業を継いだ人、同じように継ぐことを考える人たちが出会い、学びやスキルを深め、刺激し合い、つながる機会を支援します。

家業イノベーション・ラボ
https://kagyoinnovationlabo.com/

家業イノベーション・ラボの最新情報はFacebookから「いいね!」をしてチェック
https://www.facebook.com/kagyoinnovation/

「家業イノベーション・ラボ」のイベントの様子

2021年3月15日より、次世代を担う若手経営者や後継者の方のための共創スペース「NN Shibuya Crossroads」(https://www.nnlife.co.jp/strengths/crossroads)をオープンしました。渋谷スクランブルスクエアに置く本社の一区画を無償開放することで若手経営者や後継者同士の交流を促し、事業に関するひらめきや新しい価値の創造を支援します。


NN Shibuya Crossroads(エヌエヌ渋谷クロスローズ)

Promoted by エヌエヌ生命 / text by Nanae Ito / photograph by Kenta Yoshizawa

あなたにおすすめ