ロンドン大学ゴールドスミス校は英国の人文系に強い教育機関です。ここにもラグジュアリーマネジメントのコースがありますが、サイトでカリキュラムをみると文化人類学などの魅力的なクラスが紹介されています。
同コースのプログラムディレクター、ケリー・メン・パーンウェル氏に学生に学んで欲しい要素を聞くと、「第一に批判精神です。この分野は、さまざまな議論を生むネタがあまりに多いからです。その次に創造性です。手元にある知識や情報を活用しながら、工夫を重ねてあるモノやコトを常に新しい価値として提示していく力がないといけません」と答えてくれました。
このコメントから分かるように、常に新しい解釈と価値を提供するに、あらゆる分野への「土地勘」をフル回転させることが肝心なわけです。
彼女はさらに、「ラグジュアリー分野に参入するのに必ずしも特殊な技術が要求されるわけではないので、世界各地でラグジュアリー領域にイノベーションが起こりつつあるのは当然の現象」と、これまで主流だったヨーロッパの貴族的なイメージを纏ったラグジュアリーはイノベーションの渦中にいる、ということを示唆しています。
東アジアとラグジュアリーの動向
もう一人紹介しましょう。ロンドンのサザビーズのアート・インスティテュートで教鞭をとるフェデリカ・カルロット氏です。50年前に社内でアート専門家を育成するのを目的として始まった同校は、アートや人文学を核にしたハイエンド文化産業の人材育成がカリキュラムの根幹にあります。
コースはラグジュアリーの社会的意味がどのように変化してきたかを教え、そのうえで現在のブランドマーケティングやファイナンスなどを学ぶ内容。6カ月のコースで、提携しているマンチェスター大学から修士号が授与されます。ラグジュアリー分野に相応しい言語やアプローチとはなにかを学び、コンテクストを理解する習慣をつけさせます。
フェデリカ・カルロット
カルロット氏自身、日本に造詣が深く、アジア諸国からの留学生も多くいるので、東アジアの動向をどう見ているかを聞くと、「中国ではクラフツマンシップをコアにしたラグジュアリーが動き出しています。一方、日本には今それに相応しい存在感がありません。日本の方たちはラグジュアリーにビジネス機会あるのを認識していないのでしょうね」となかなか手厳しい見方をしています。
これは、中野さんが第3回コラムで指摘したように、国際的に見ればラグジュアリーな動きにもかかわらず、日本のプレイヤーにその認識がないというところと一致します。
またカルロット氏は俯瞰的な視点から、「グジュアリーは文化の駆動力になります。企業のもつ価値以上に社会的文化的に占める位置が大きいはずです。また人々の精神的価値にも貢献します。ラグジュアリーのスタートアップが果たす役割も、そこに価値があると考えます」と話していました。
中野さん、人文学を基点としたビジネスとしてのラグジュアリーの意味が、このように語られています。ビジネスに人文学は不要とさえ言われがちだったところ、社会の変容の先端を歩むに人文学的素養が求められています。中野さんご自身の想いも含め、「人文学起点のラグジュアリー」についてコメントを寄せていただければと思います。