ビジネス

2021.04.13

売上減過去最大の百貨店 EC導入も課題あり、活路はどこに?

昨年緊急事態宣言下で休業を余儀なくされた伊勢丹新宿店(GettyImages)


──百貨店各社の経営は、いまや金融事業や不動産事業によって成り立っているという現状をどのように見ていますか。

実は米国の百貨店ですら、売上の30〜40%をECで売ってBOPIS(Buy Online, Pick up In Store、ECで購入した商品をリアル店舗で受け取ること)で顧客利便に応えても、ほとんど利益が出なくなっていて、自社発行のクレジットカードの手数料で利益を下支えしているんです。この事実からも、すでに日本の百貨店が出遅れているECを伸ばしても利益貢献には限界があり、自前のクレジット事業などの方が確実です。

百貨店自身がRaaS機能(Retail as a Service、小売業者が顧客データやノウハウを活用しテクノロジーと掛け合わせることで、小売をサービス化すること)をもって体験型プラットフォームに進化することも考えられますが、百貨店という企業が存続していくための売上とコストのバランスからいうと、不動産業化する方が格段に効率がよく、そちらに進むと思われます。

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体験型小売店舗としてサービスを展開するb8ta。昨年有楽町と新宿マルイ本館に上陸した。出店ブランドから月額料金を集め、商品を体験した顧客のマーケティングデータを企業に提供する(Getty Images)

労働集約型の小売業の生産性と、資本がお金を稼ぐ資本集約型の不動産業の生産性は桁が違い、同じ売上を作るのに労働集約型だと10倍の人件費がかかるのです。

大丸松坂屋がかつて実験したところ、売り場が「消化仕入れ」じゃなく定期借家のテナントになると管理の手間が激減し、百貨店業で300人要したところを30人で回せるようになり、資本生産性が一桁上がることがわかりました。ただこれは同時に、9割の人材が不要になることを意味します。

──では百貨店は今後どういった方向に活路を見い出せるのでしょうか。

中国にいい実例があります。中国の銀泰商業百貨店はアリババに買収され、同社のシステムに乗せてECやライブコマース、店舗受け取りや近隣宅配を行って売り上げを4割伸ばし、赤字を1年で黒字転換させました。

日本の百貨店も今後活路を見出すとしたら、デジタルプラットフォーマーの傘下に入るしかないでしょう。ZOZOのようなECプラットフォームに乗せて、ECで事前に商品をチェックしてから百貨店で買ったり、ECで取り寄せた商品を百貨店で試せたり、ECで注文した商品を百貨店で受け取ったり返品できたり、そういうOMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインを融合させたビジネスモデル)システムができれば先が見えてくるのではないか。

三越伊勢丹や高島屋がZホールディングスや楽天と資本提携しても、もはや誰も驚きはしないでしょう。こうした資本提携は今後100%実際に起こると思います。

例えば先述のコールズはAmazonと提携していて、Amazonの商品をコールズの店舗で返品することができる。日本でもこれから、ZOZOや楽天、Amazonが大手百貨店各社の陣取り合戦を競うことになるでしょう。

ファッションリテーリング

小島健輔◎ファッション流通ストラテジスト/コンサルタント 株式会社小島ファッションマーケティング代表取締役。慶應義塾大学卒後、大手婦人服チェーンに勤務した後、同社を設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライ&ロジスティクス、出店戦略、店舗運営まで一貫して捉え、店舗とECを一体にC&Cやテザリング、ショールーミングストアやウェブルーミングストアを提唱。近著はアパレル業界の堕落の40年を総括して破滅の淵から再生する戦略とテクノロジーを提示した「アパレルの終焉と再生」(朝日新書)。

文=河村優

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