事業は高い志を持ってやらなければいけない──孫正義流「成長」への心得

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“志”と“夢”の違い


孫さんは、「人生のテーマを何か書いてほしい」と言われると、唯一書く言葉があるのだそうです。それが、「志高く」という一行です。

「この“志”という言葉の意味を教えてくださったのが、野田先生でした」

かつて若い頃、孫さんやパソナの創業者・南部靖之さんは、野田さんのことを慕い、よく彼のもとを訪れていたそうです。

「僕と南部さんのふたりで先生のオフィスにいたとき、先生からこう聞かれたんです。『孫君、南部君、君たちは“志”という言葉の意味を知っているか』。僕が『なんとなくわかります』と答えると、先生はこうおっしゃったのです。『では、“志”と“夢”の違いはわかるか』と」

対談で、20数年前の出来事をスラスラと語る孫さんに、野田さんは驚かれていました。「そんなことまで覚えていたのか」と。孫さんはこう続けました。

「今でも、はっきり覚えています。“志”と“夢”の違いを聞かれてドキッとしました。似ているようだけれど何だろうと頭にクエスチョンマークが浮かびました。

すると、先生は、こうおっしゃいました。『“夢”というのは漠然とした個人の願望だ。車を買いたい、家を持ちたいといった夢はみんな、個々人の未来への願望。でも、その個々人の願望を遙かに超えて、多くの人々の夢、多くの人々の願望をかなえてやろうじゃないかという気概を“志”というんだ。

夢は快い願望だが、志は厳しい未来への挑戦だ。だから、“志”と“夢”ではまったく次元が違うぞ。“夢”を追うなんて程度の男になってはいかん。“志”を高く持て!』と」

孫さんは、野田さんのこの言葉に衝撃を受けることになったと言います。

「事業は高い“志”を持ってやらなければいけない。自分の商売、自分の会社経営という個人的次元で終わってはいけない、そう教えていただいたのです」
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文=上阪 徹

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