対談は、2010年代が観光バブルの時代だったのではないかという西川准教授の指摘をもとに、オーバーツーリズムの問題や、経済一辺倒に傾斜したように見えた過去10年の日本の観光の現場で何が起きていたかについての検証に移り、今日の社会において観光学を学ぶ意義が語られている。
同誌には、他大学を含めた3人の観光研究者の論考も収められている。
文化人類学者の門田岳久立教大学准教授は、研究休暇で滞在するフィンランドから、コロナ後にヨーロッパ各地で始まった「フライトシェイム(飛行機旅行を抑制する)運動」やアンチツーリズムキャンペーンについて寄稿している。それらのテーマは「遠くから近くへ」「多動からスローへ」である。
宗教学者の岡本亮輔北海道大学教授は、「歩きという最も効率の悪い手段を選択」する現代の聖地巡礼の姿を通じて新しい観光のあり方を論じ、観光経済学者の麻生憲一帝京大学教授は、コロナ禍で宿泊客の行動はどう変わったかを検証している。
学生たちから感じた前に進もうとする意思
冒頭の筆者の問いについて、みずみずしい思考で応えてくれているのが、前述の西川准教授のゼミ生たちのレポート「日常・非日常を超えた新たな観光の展望────学生へのアンケート調査から考える」だ。
観光地における都市計画やまちづくりをテーマに、観光客を受け入れる地域側の視点を大切にしてきた西川ゼミは、「ウイズコロナ、ポストコロナの観光行動、観光地はどう変わる(べき)か」という問いのもと、昨年6月と10月に600名以上の学生を対象にアンケートを実施、7月と12月に調査報告書をまとめている。
2020年7月に発表されたアンケート調査報告書「新型コロナウイルスの流行に伴う学生の旅行意識への影響に関するレポート」
アンケートの内容は、新型コロナウイルス感染拡大による学生の旅行意識への影響に関するものだ。そのテーマを選んだ理由について、レポートにはこう記されている。
「新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の流行をきっかけに観光の脆弱性が露わになり、今までのように容易に観光をすることができなくなってしまった状況に、多くの人々が不安を抱いたことでしょう。観光を専門に学ぶ私たちも、観光産業はこの先どうなってしまうのだろうか、希望はないのではないかと不安を抱いた時期がありました。
しかし、ゼミでの新型コロナ後の観光を考える議論を機に、この新型コロナの状況は、今までオーバーツーリズムなどの問題もあった観光のあり方が変わるきっかけ・チャンスでもあるのではないかと少しずつ前向きに考えられるようになりました」