国会で「クイズ質問」をやってる場合ではない米国の「指令」

1960年代に英国の労働党政権で国防相を務めたデニス・W・ヒーリー(Photo by KEYSTONE-FRANCE/Gamma-Rapho via Getty Images)


ただ、一部には質問する政治家の「クイズ質問」にも眉をひそめる声がある。事前に政府に提出する「質問通告」をしなかったり、あるいは、わざとおおざっぱに「菅政権の政策全般について」などと伝えたりしておく。そして、実際の国会質問の場で、「お宅の役所の職員は何人ですか」とか、「今年のこの政策の予算はいくらですか」といった、重箱の隅をつつくような質問を繰り出す。相手が答えられずにいると、「大臣にもなって、そんなことも知らないんですか」と言って勝ち誇るというやり方だ。

安倍晋三首相(当時)が2020年2月の衆院予算委員会で、立憲民主党の辻元清美議員が「鯛は頭から腐る」といった言葉を引用するなどして激しく批判したことに怒り、「意味のない質問だ」と言い放ったこともある。

ただ、自民党も野党時代、こうした「クイズ質問」を連発する議員がいたので、どの政党が悪いとは言えない。本人の名誉のため、あえて名前は伏せるが、与野党でクイズ質問が好きな議員を見渡すと、国会での論戦よりも、テレビなどに出演してワンフレーズで目立とうとする傾向があるようだ。

国会での質疑応答はもちろん、真実を明らかにするという使命も帯びている。だが、前述したとおり、政府側は質問通告書を元にがっちり理論武装しているので、特別なタレコミでもない限り、その壁を打ち破るのはなかなかに難しい。だから、週刊文春のネタに頼りがちになって、「文春国会だ」と馬鹿にされることにもなる。

ただ、素晴らしい論戦を繰り広げることで、政府の政策の意義や問題点を浮き彫りにすることはできる。かつて、1960年代に英国の労働党政権で国防相を務めたデニス・W・ヒーリー(Denis W. Healey)という政治家がいた。この人は「ソ連を抑止するためには、米国が報復するという信頼が全体の5%もあれば足りるが、欧州の同盟国を安心させるためにはその信頼の95%が必要だ」という名言で知られる。安全保障の専門家の間で、「ヒーリーの定理」として有名な言葉だ。

安全保障の専門家は「この言葉を巡って、繰り広げられた英国議会の論戦は素晴らしかった。今、当時の記録を読み返しても、なぜヒーリーの定理が正しいのかが、よく理解できる」と語っていた。

世間は今、台湾や尖閣諸島を巡る有事を心配する声が起き始めている。日本はいったいどうしたらいいのか。日米首脳会談で、菅首相からバイデン大統領に「日本は、これはできるが、これはできない」とはっきり言ってもらうための根拠を、国会の論戦から導き出す必要がある。ご飯論法とクイズ質問が好きな政治家にはできないだろうけれど。

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文=牧野愛博

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