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4. 共感は、データに公平性を与える


デザインリサーチではリサーチ参加者への共感が重要とされる。デザインリサーチャーになった当初、客観性が重視される研究開発とは正反対なのかと思ったが、「目的(課題設定・仮説検証)のために、どう公平なデータを取得し理解するか」の手法の違いなだけで、これも問いの特性の違いに由来するのだと気づいた。

そして、リサーチを通じて様々な人たちの声を聞いていく中で、少しづつ、デザインリサーチにおいてなぜ共感が大事なのか分かってきた。



例えば、あるプロジェクトで、慢性疾患とともに生きる人が抱えている不安感をどのようにしたらサポートできるかというテーマがあった。

患者支援という観点からデスクリサーチをしていた私は、いつ症状が変化するか分からず先の見えない不安を抱える患者さんたちにとって、正確でタイムリーな診察情報や補完医療も含む治療の選択肢へのアクセスが鍵だと思っていた。しかし、そうした情報が必要な本当の理由にまでは想像が至っていなかったことにインタビューで気づかされた。

「以前は自分で出来ていたことを子供に頼らないといけないので、子どもが不憫だ」「診断を境に、昔の自分は一生失われてしまった」

慢性疾患は一般的に、再燃と寛解を繰り返す。そのため診断が持つ意味合いと心理的影響は、急性疾患のそれとは異なる。頭では理解していたつもりが、ご本人の今までの生き方がどのように一変したかや、今の自分を受け入れ難い一方で周りに症状を理解してほしいという葛藤に共感することで、正しい文脈を汲むことができた。

そこで初めて、私たちが一般的に想像する「患者さん」ではなく、「目の前にいるこの人」のために何ができるだろうかという観点で明確な課題設定が可能となった。

このような経験から、ユーザーとの対話において共感が大事な理由が二つ見えた。一つは、真にその人の視点に立った「なぜ」を理解できる状態になれるから。複雑かつ非合理な心に寄り添い、ときには、答えている本人さえも言語化できない課題について一緒に考え、過去を追体験することで、事実に基づくユーザー視点の課題設定が可能になる。共感がデータに公平性を与えるのだ。

もう一つは、その人の言葉がデザインの原動力になるから。具体的な相手を思い浮かべられることは、デザインすべきコンテキストや指針が明確になるだけでなく、「◯◯さんのために解決したい」という課題の自分ごと化とデザイン意欲につながる。そしてこの想いこそが、サービスやプロダクトの製品化において多くの困難と壁が立ちはだかる仮説検証のフェーズでも、自分たちを前進させてくれる原動力になるのだ。

文=IDEO Tokyo デザイン・リサーチャー 髙取 孝光

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