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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」


では、それは、話術や文章、音楽や絵画という「表現」の世界だけの共通の真実なのか。

そうではない。実は、「表現」(expression)の対極にある行為、「感受」(impression)の世界においても、それは真実である。

例えば、「感受」の世界の最も深い次元である「宗教」の世界においても、「悟り」や「光明」を得るために、この「無」と「空」が、極めて大切な意味を持っている。

キリスト教の神秘思想に「静寂主義」(Quietism)と呼ばれるものがあるが、これは、生活における「静寂」を重視し、「沈黙」を続ける行を通じて光明に至ることをめざすものである。

また、禅の曹洞宗の修行法は「只管打坐」、すなわち、ただ座り続けることを通じて悟りに至ることをめざすものであるが、これも、心の中の声が消える無念無想の「沈黙」を続ける行に他ならない。

しかし、この「静寂」や「沈黙」が、我々の意識に深い変容をもたらすことは、「宗教」の世界だけでなく、最先端の「科学」の世界でも起こる。

かつて米国のアポロ計画で、宇宙遊泳を体験した宇宙飛行士、ラッセル・シュワイカートは、そのときの神秘的な体験を語っている。

彼は、アポロ9号の船外で宇宙遊泳の活動をしていたとき、母船との連絡が途絶え、数分間、全くの「静寂」の中で、遥か足下にある地球を眺めることになった。このとき、突如、地球と自分が一体化したような神秘的な感覚、「惑星意識」とでも呼ぶべきものを体験したと、彼は語っている。

このように、「静寂」や「沈黙」が、我々の意識に深い変容をもたらすことは、普遍的真実である。

では、この「無」や「空」というものが持つ不思議な力。それを、いかに自らの力とするか。

まずは、日々、自己の内面を見つめる「沈黙」の時間を持つこと。

そのとき、我々の精神の深化が始まる。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国6,400名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』『直観を磨く』『知性を磨く』など90冊余。

文=田坂広志

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