だがこの職場環境には、従業員の生産性を監視し、作業の遅れを警告し、無気力に行われている作業を記録するコンピューターも含まれている。
調査報道サイトRevealの入手した内部データによれば、2019年には100人の従業員につき7.7人が深刻な事故に遭って職場を離れるか、別の作業に異動せざるを得なかったという。この数字は3年前と比べて33%増えており、業界平均のおよそ2倍である。
アマゾンは今後もなお、作業場の設備充実や日々のストレッチ励行、人の行き交う通路とフォークリフト路の分離など、訓練やテクノロジー、会社施設における安全性強化のためのインフラ整備にお金をかけていくと宣言しており、さらに職場の健康と安全に関わる人員を6200人に拡充する予定だ。
サプライチェーンのコンサルティング会社MWPVLInternationalの創業者であるマーク・ウルファートに言わせると、「アマゾンは従業員からあまりにも多くのものを絞り出そうとしている」とのことだ。
ロボット介入で、ヒトのノルマは「1時間に300商品以上」に
また一方で、人間とロボットの共同作業の新たな問題も生じている。たとえば、商品をピックアップするためにロボットが通路を移動する距離が次第に伸びており、これは幸いにも、従業員が固いコンクリートの床を1日に10キロも20キロも歩きまわる作業から解放されることを意味する。従業員は一カ所に留まり、ロボットが持ってくる商品を受け取ってスキャンすればいいことになる。
ところが、それによって作業はこれまで以上に「同じことの繰り返し」になる。つまり、これまでは「1時間に100商品」を処理すればよかったのが、ノルマが「1時間に300から400」にはね上がったとニューヨーク・タイムズが報じている。このデータについては、アマゾンはコメントを拒否している。
ベッセマーの従業員が組合結成に成功すれば、ノルマの低減や休憩時間の延長を交渉することになるだろう。それによって発送にかかる時間が長くなれば、会社は注文をさばくためにさらに多くの人員を雇用するようになるはずだ、とトム・フォートは言う。それは会社の純利益を食いつぶす追加経費となり、従業員の賃上げに応じるだけではすまなくなる。
こうしたことは全部アマゾンが解決すべき問題と言ってしまえればいいが、自動化の加速は最終的には人間のする仕事を減らしてしまうことになるから、従業員にとっても問題になる。いまのところ、まだこうした問題が表面化したことはなく、アマゾンは施設や設備の自動化を行う一方で、米国内の正社員と非正規社員を5年前の18万人から95万人に増員している。この先数年でウォルマートを抜く国内最大の企業になることを目指している。
「アマゾンの究極の目標が『倉庫の完全自動化』であることは間違いない」とパク教授は言う。「だが、まだ組合に『いいとも、みんな出て行ってくれ。われわれにはこの倉庫がある』と言ってしまうだけの態勢はできていない。この会社もまだ脆弱な立場にあるのだ」