さて、今回の投票に至ったワケを知りたければ、ジェニファー・ベイツに話を聞くのが一番だろう。ベイツは48歳の倉庫従業員で、昨年5月にこのリテール・ジャイアンツのベッセマー発送センターに雇用され、3日とたたずに仕事が体に苦痛をもたらすものであることを思い知った。
ベイツは、1日10時間立ちっぱなしで商品のスキャンや発送のための荷造りを行い、わずかな休憩時間の大半を8万平方メートルもの広さがある巨大な倉庫内の近くのトイレとの往復に費やす日々を送ってきた。四六時中、ものすごい速さで身体を動かし続ける毎日は、健康を損ねても不思議のないものだった。
肉体的な疲労だけではなく、自分の一挙手一投足を見張られているのがわかっているストレスにもさらされている、とベイツは議会上院の公聴会で語っている。作業の速さについていけなければ、罰を受けるか解雇されることになる。
大統領、議員も巻き込む論戦に
「目が回るほどの速さだった」と、彼女は議会で証言した。「しかも常に『監視』されていると感じる。私たちは機械のひとつとしか見られていない」
その「機械」はベッセマー発送センターだけで5800人いて、出版物、食料品から娯楽グッズまで、アマゾンのビジネスには欠かせない役割を果たしている。
アマゾンは1994年の創業以来、まるで強迫観念のように顧客満足度のアップを目指し、商品を工場から購買者の戸口に瞬時に運ぶために、ビジネスの形態を急激に変化させてきた。そのあおりをまともに食ったのが、たとえばベッセマーの従業員だった。
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「会社は何より生産性を優先させている」と、クレモント大学で作業の自動化とそれが労働者に及ぼす影響について研究するリチャード・パク教授は言う。「私たちは増え続ける注文にどう応じていけばいいのか?」
その疑問に対するアマゾンの答えが、ベイツと同僚たちの利害と正面からぶつかることになり、この全米2位の企業に初めて労働組合が組織される可能性が出てきた。
成功すれば動きが会社全体に広がることも考えられ、激しい言葉の応酬が交わされるようになった。会社側は発送センターのトイレに、組合に入らないことも労働者の権利だと訴える大きな紙を貼ったり、ウェブサイトで「苦労して稼いだ金を組合費に使うより、その金で食料品や学用品を買うべきだ」と主張したりした。論争の舞台は全米に広がり、バイデン大統領はじめ、女優兼脚本家のティナ・フェイ、アメフトの有名選手などが発言し始めた。
つい先ごろ、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOがツイッターで、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンの両上院議員と論争を行ったことも報じられている。3月26日にはサンダース上院議員がアラバマ州を訪れ、組合支持を表明した。
「これは金の問題ではない」と、ラトガー大学で労使関係を研究するレベッカ・ギヴァン教授は言う。「労働者はアマゾンが自分たちの仕事を完全にコントロールしようとしていることが不快なのだ。極端なまでの監視態勢や、まるでプログラムに管理されているような作業ノルマと速度に、人間扱いされていないと感じている」