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2021.04.07 07:30

ユニコーンをクビになった男の逆襲。新会社で人事制度に革命を起こす


こうして復帰したコンラッドのその後は、順調なようだ。現在、「コンパス・コーヒー」から「ディビーアップ・ソックス」に至るまで2500社以上がリップリングの従業員管理ソフトを使っており、最低でも1ユーザーあたり月間8ドル(約830円)を支払っている。19年の売り上げは推定1000万ドルで、年間経常収支は1300万ドル。20年にはそれが、コロナ禍による経済や雇用への悪影響にもかかわらず、倍増する可能性がある。

ほかの人事ソフト開発会社のなかには、20年春に大規模なレイオフを実施したところもあるが、250人近い従業員(半数近くはインドのバンガロール勤務)を抱えるリップリングは、計11人を解雇したにとどまっている。コンラッドは3月にマーケティング予算を半分に減らし、4月には新しいプログラムを本格展開した。資金繰りの苦しい顧客が給与保護プログラム(PPP)に融資を申請する際、必要な情報を取り出してスムーズに申請できるようにするもので、顧客の3分の1以上がその恩恵にあずかっている。景気低迷の最中、4月はこれまでで最大の売り上げを記録したと、コンラッドは言う。

リップリングの最高業務責任者で、大学の友人でもあり、やはりスタートアップの創設者兼最高経営責任者を務めた経歴を持つマット・マキニスは、コンラッドの下で働くのは骨が折れると言う。

「彼は要求が多いうえに短気だ。でも、だからこそスタートアップの経営にとても向いている」

ゼネフィッツを追われたコンラッドだが、自分はゼネフィッツの凋落ではなく成長に大きく貢献したのであり、もう一度同じような成功をものにできるとして、いくつかの大手ベンチャー・キャピタルを難なく口説き落とした。そうして彼は、「イニシャライズド・キャピタル」や「クライナー・パーキンス」といった投資機関から1億ドルを調達。19年4月の直近の資金調達ラウンドでは評価額2億9500万ドルで、4500万ドルを調達した。試算では、コンラッドとサンカールの持ち分は少なくとも2人合わせて40%、金額にすると1億ドル以上だ。

リップリングは、フォーブスが評価額10億ドルに達する可能性が特に高いと考える、20年の「次世代のスタートアップ企業25社」にランクインした。ちなみに、ゼネフィッツも15年にランクインしており、まったく別の2社でこのリストに選ばれた起業家はおそらくコンラッドひとりだろう。

「これほどの見事な復活劇は、これまでのキャリアでも見たことがありませんよ」

8年にわたりコンラッドに注目し、リップリングに投資したイニシャライズド・キャピタルのマネージング・パートナー、ギャリー・タンはそう言う。
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文=エイミー・フェルドマン 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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