ビジネス

2021.04.07

ユニコーンをクビになった男の逆襲。新会社で人事制度に革命を起こす

パーカー・コンラッド


クライアントのひとつで、ワシントンDCの12カ所でカフェと自家焙煎のコーヒーの高級店を運営するコンパス・コーヒーは、19年夏からリップリングのサービスを利用している。共同創設者のマイケル・ハフトは、給与計算と人事評価作業の煩雑さに悩まされていたと話す。

「給与計算に以前は毎週約20時間もかかっていたのが、今ではたった45分ほどで済むんです」

コロナ禍でスタッフの大半を一時帰休させざるを得なくなったハフトは、給与保護プログラムの融資の申請に必要な情報をまとめる作業でもリップリングのソフトを使うようになり、頼りにしているという。これは、リップリングの顧客企業のうち950社も同様だ。

「中小企業庁(SBA)の発行するガイダンスに沿って報告機能を再設定する必要があるのですが、リップリングを使うと実に短時間で作業を完了できるんですよ」

ところで、かつてゼネフィッツは急成長に伴って規制への対応が大雑把になり、トップの辞任を招いた。成長目覚ましいリップリングは、同様の問題を未然に防ぐことはできるのだろうか。コンラッドとそのチームは「できる」と断言する。つらい経験から学び、力を貸してくれる経験豊かな人材を集めているというのがその根拠だ。

そうした人材の一人で法務顧問のバネッサ・ウーは上場企業「ライブランプ」から移ってきた。創業間もないスタートアップがこれほどの人材を迎えることはかなりの異例。過去の過ちを繰り返すまいとするコンラッドの固い決意の表れでもある。

コンラッドはまた、シリコン・バレーで「コインベース」「オープンドア」「レディット」といった急成長企業の創設者にコーチングを提供してきたマット・モカリーの助言も仰いでいる。

「パーカーのことは高く評価しています。自分の欠点を自覚している彼は、そうした欠点に向き合うのを手助けできる人を求めているのです」

そう話すのは、リップリングのシリーズAラウンドで主導的役割を果たした「クライナー・パーキンス」のパートナー、マムーン・ハミドだ。

「彼のそういった点は敬意に値します」

こうしてみると、コンラッドがリップリングを立ち上げたのには、ビジネスの面と感情的な面、両方の理由があったことがわかる。

「リップリングで1億ドルを売り上げ、成功することができれば、ゼネフィッツの件についても否応なしに評価が変わるでしょう」

コンラッドは言う。

「僕にとってはそれが、事の顛末を説明し、自分の言い分を主張するための唯一の方法なのです」




パーカー・コンラッド◎リップリングの共同創業者兼CEO。米ニューヨーク生まれ。名門カレッジエイト・スクール在学中には全米ウェスティングハウス秀才コンテストで3位に入賞。ハーバード大学で化学を学び、バイオテクノロジー会社を経て、2006年に最初の起業。その後、13年に「ゼネフィッツ」、16年に「リップリング」を創業。

リプリング
◎2016年創業。人事業務の効率化のためのソフトウェアサービス。従業員を採用すると、自動的にその人物を従業員名簿と同社の401k(確定拠出年金)プランに追加したり、業務に必要なツールをそろえたりできる。操作性が高く、従業員の入社・退職の際の手続きも90秒で完了できる。1人あたりの料金は月8ドルから。

ゼネフィッツ◎2013年に、コンラッドが共同創業者兼CEOとして始めた人事ソフトウエア開発会社。人事管理、勤怠管理、給与計算、保険の管理などを効率化、利用料ゼロで人気を呼んだ。創業から3年足らずで評価額45億ドルとなり、5億ドルを調達。注目のユニコーン企業となったが、健康保険販売関し不祥事が発覚した。

文=エイミー・フェルドマン 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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