ビジネス

2021.04.07

ユニコーンをクビになった男の逆襲。新会社で人事制度に革命を起こす

パーカー・コンラッド

5年前の成功から辞任という、まるでジェットコースターのような転落劇。新たな会社での躍進は、起業家としての理想と信念を証明するものとなるのか。


パーカー・コンラッドは32歳のとき、人事ソフトウェア開発企業「Zenefits(ゼネフィッツ)」を立ち上げ、3年もたたないうちに評価額45億ドルというシリコン・バレーを代表するユニコーン企業へと成長させた。しかし、ブローカーがライセンスを未取得の州で健康保険を販売するなどコンプライアンス違反が発覚し、すべては崩れ去った。

2016年2月、辞任圧力が高まるなかでコンラッドは身を引き、新しい経営陣の下で事業縮小を余儀なくされたゼネフィッツの評価額は、半分以下にまでなった。そして彼が自宅に引きこもって『スター・ウォーズ』シリーズを観ている間に、証券取引委員会(SEC)と州の保険規制当局は捜査に着手した。

コンラッドは当時をこう振り返る。「ぼんやりと自殺まで考えるような精神状態で、誰とも言葉を交わさず、自分の周りで続く最悪の事態を自宅に隠れたまま見ていました」

だが彼は、ソフトウェアを使って人事業務の効率化を実現するという使命感をもち続けていたし、何より「自分にはできる」という気持ちを失っていなかった。6週間もたたないうちに自信を取り戻し、新しい会社の立ち上げを決めた。

ずんぐりとした体、赤みがかったブロンドの髪のコンラッドはいま、40歳になった。16年4月、彼はゼネフィッツの元エンジニアリング責任者、プラサンナ・サンカールを共同創設者兼最高技術責任者として、「Rippling(リップリング)」を立ち上げた。

リップリング立ち上げ後の最初の2年間、2人はサンフランシスコのミッション地区にあるコンラッドの自宅で、人知れずソフトウェア開発を行った。目指すは、給料や給付金の計算だけでなく、新入社員を「セールスフォース・ドットコム」や「ギットハブ」などのツールにきちんとアクセスできるようにしたり、「リストサーブ」の適切なメーリングリスト、「スラック」のしかるべきチャンネルに確実に登録したりするといった、手間のかかる各種手続きの自動化を可能にするソフトウェアである。

当座の本社として使っていたコンラッドの自宅は、17年秋までに、当時妊娠中だった妻と子供1人、愛犬のほかに14人がひしめき合うようになっていた。


リップリング創業にあたってコンラッド(右)は、ゼネフィッツの元エンジニアリング責任者で現在はリップリング共同創設者兼CTOのプラサンナ・サンカール(左)を誘った。2年間は、2人でソフトウエア開発を行った。
次ページ > 評価額10億ドルに達する可能性も

文=エイミー・フェルドマン 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事