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2021.04.09

単なるメカニズムなのか、大義はないのか? 資本主義の正しい役割

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2. 資本主義は民主制を促す。すべての資本主義国家が民主化するわけではないが、中流階級の増大に伴って裕福な人が増えれば、政府に対して物を申したくなる人や個人の自由を求める人が増えることも実証されている。

ノバク曰く、中流階級はいつの時代も共和主義の精神の温床なのだ。スペインの中流階級に豊かな人が増えると、フランコによる独裁政権は終りを迎えた。

中国の非都市部の人々が市場のシステムで裕福になるには、ひと世代以上かかる可能性があるものの、中国もやはり民主化へと進む以外に道はないように思う。

すでに都市部では、個人の自由をより強く求める熱を感じ取ることができる。その熱はいまのところ、より多く稼ぎ、より多くものを買う自由が生まれたことで抑えられているが、いずれその熱は政治的な自由を求めるものへと変わるだろう。

3. 資本主義では、法的な規制を通じて所有権と個人の権利を尊重し、政府のかかわりを限定的にすることが求められる。だからこそたとえ自由につけこむ人や、安定を崩そうとする人が現れても、資本主義では安定性と自然的自由が保障される。

多くの個人が一部を担う開放経済と、国家政府による計画経済を比べると、その計画がどれほど安全であったとしても、不測の事態に対処できる確率は開放経済のほうが高い。人間は全知全能ではないのだから、好きな花を選んでそれだけに水をやるよりも、1000の花を自由に咲かせるほうがいい。

4. 資本主義は嫉妬を減らす。これについてノバクはモンテスキューの言葉を引用している。

「商業は最悪な偏見の治療薬である。なぜなら、心地よさを感じる場所で商業が盛んになるという現象は、法則と呼んで差し支えないものだからである」

だが私にいわせると、資本主義は、隣人との張り合いや優越感への欲求から嫉妬の感情をもたらす一方で、そうした欲求に対処する機会ももたらすという矛盾がある。要はまわりと競うこともできれば、まわりに合わせないこともできるのだ。

だからこそ、資本主義は多数派の独裁を防ぐのだとノバクは論じる。資本主義の下では、多数派の価値観を強要することはできないと彼は言う。私はノバクほど理想主義ではない。

お金が価値を測る唯一の尺度になれば、成功の定義を自分自身で決めづらくなる。だがもちろん、どうするかはその人しだいだ。

5. 資本主義はモラルの向上を促す。根底にモラルの一致がなければ、資本主義は機能しない。ロシアの一部では現在も野蛮な経済が見受けられる。海賊行為、殺人、詐欺、露骨な契約無視などが横行しているのだ。

そうした行為が生まれることは資本主義に固有の特徴であり、強制力の高い法的システムが目を光らせることでしか資本主義は機能しない、との声もある。たしかに法律は必要だが、人々がそれを機能させたいと思わない限り、抑止力にはならない。

ロシアもいずれ、日々の取引における正邪を人々が理解し、それを根底としない限り貧困に終わりはないと気づくだろう。皮肉にも資本主義がモラルを育てるのであって、その逆はおそらく起こらない。
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