ビジネス

2021.04.05

絶滅危惧の技術が市場を無限に!オキサイドが世界シェアNo.1をつかんだ「日本の光」

オキサイド代表取締役社長の古川保典。後ろに見えるのが単結晶の育成装置だ。オキサイドは、現存するほとんどの単結晶育成技術を保有する世界唯一の企業。 出来上がった単結晶は、手のひらほどの大きさで数百万円の値が付くものもあり、価値が高い。



自社内で加工したデバイス(素子)をレーザー光で特性評価している。オキサイドは単結晶そのものだけでなく、デバイスやモジュール、レーザー製品と素材から最終製品までを展開。

「県の産業振興課の方は、とにかく山梨からベンチャーを育てたいと一生懸命でした。たぶん、全然ゆかりがないのに山梨へ来たことも喜んでくれたんだと思います。私たちが経営のことを何も知らないのも、苦労しているのもわかっていたでしょう。県の支援策はほとんど全部、活用させてもらえました」

福島・会津地方の男性らしく木訥としている古川を見て、手を差し伸べずにはいられなかったのだろう。

実は、母校と前の勤務先のあるつくばも、創業地の候補に挙がっていた時期がある。

「でも、ベンチャーがたくさんあるつくばに残っていたら、埋もれていたかもしれませんね」

山梨は水晶という単結晶の一大産地だ。県にとっても、オキサイドが成功すれば、その加工などの地場産業が盛り上がるという期待があったのだ。

大手企業の技術、人材を吸収


地域にも支えられて事業を軌道に乗せたオキサイドはその規模を拡大していく。

まずは人だ。NIMS時代に古川が開発した技術を企業が採用しなかった理由のひとつに、光学単結晶など素材系事業の採算の悪さがある。

「昔は、大手家電メーカーはみんなやっていたけれど、ビジネスになっていなかったんです。事業部制になって独立採算制になって、2000年代の初めくらいにはほとんど撤退しました。私くらいの世代の人が、最後の生き残りなんですよ」

その生き残り仲間に古川は次々と声をかけた。

「一緒にやりましょう、と。僕らは絶滅危惧種だけど、世の中にとって大切なことをやっていると思うからと」

ソニーがもっていた深紫外レーザーなど、光学単結晶を使う製品の事業買収にも踏み切った。こうすることで、実績と熱意のある技術者が、お金ではなくやりたいことのために集まってくる。必要な設備は、手放されるものを引き受けるのでタダ同然だ。


育成した結晶を加工する際に使用する用具の一種。設備の多くは、単結晶事業から撤退した大手企業から譲り受けたものだ。

絶対に値切らないものもあった。特許だ。

「そこをディスカウントするということは、それを発明した人の価値を値切るということでしょう。それは一切、しなかった。5000万円と言われたら、その金額を用意しました」

そう言って古川は付け加える。

「やっぱり、プライドってありますよね」
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文=片瀬京子 写真= 佐々木 康 ヘアメイク=内藤 歩

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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