価値のある場の提供を。究極のサステナブル、和蝋燭の世界


新たなる発信の場として


そもそも1856(安政3)年創業の下鴨茶寮を畏れ多くも引き継いだのは、「食」を入り口にして日本の文化をお客様自らが深掘りしたいと思う場を提供できれば、という想いが根底にあった。僕にとっては、伝統の継承かつ新たなる発信でもあったわけだ。

そこで「下鴨文化茶論」と題した、世界各地のいまをときめく人物を紹介させていただくサロンを開催。ショコラティエのパスカル・ル・ガック氏、書道家武田双雲氏、フラワーアーティストのニコライ・バーグマン氏、盆栽師平尾成志氏などをお迎えし、第11回まで続けている。

それだけでなく、もちろん料理やおもてなしについてもあらためて見直して徹底し続けた結果、おかげさまで2020年10月、『ミシュランガイド 京都・大阪+岡山 2021』にて一つ星の評価をいただいた。これは09年、脚本を書いた映画『おくりびと』が米アカデミー賞外国語映画賞を受賞したときに匹敵するうれしさだった。

経営を引き継いでから8年。一番にテコ入れしたのは、従業員一人ひとりに働く喜びを感じてもらうことだった。従業員にとって仕事は日々のルーティンであり、お客様 もone of themかもしれない。しかし、お客様にとっては何週間も前からの「特別な日」かもしれないのだから、「誰に対しても1対1の接客、サービスを心がけてほしい」と事あるごとに伝えた。

一気には変わらない。でも確実に、少しずつは変わっていく。うれしいのが、先代のころから働いている80代前半の女性が「いまが一番楽しい」と言ってくれること。ミシュランの星自体は純粋な料理の味の評価だが、ここで働く従業員の表情も自然と加味されたのではないか、と僕は思っている。

今月の一皿




「東京會舘のカニクリームコロッケ」はシャトーソースにシャンパンとベルモットを足したオリジナルソースが絶品。

blank



都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動や、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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