日米の国際政治学者は戦後、安全保障を巡って、様々な見解を戦わせてきた。いわゆる「日米のパーセプション・ギャップ」と言われた論争で、その代表例が台湾を日米安保条約の範囲に含めるのかどうかという議論だった。平和な時代には、日本では「同盟による巻き込まれ論」が優勢で、「台湾を日米安保の範囲に含めるなど、とんでもない」という声が強かった。
1995年から96年にかけて起きた台湾海峡危機でも、まだこの状況は続いていた。台湾総統選挙を契機に、中国がミサイルを使った演習を行ったが、米国が原子力空母2隻を現場に向かわせたことで、急速に沈静化した。当時、取材に応じた自衛隊幹部は「中国海軍はまだまだヒヨコ同然。航海術も幼稚で、複雑な行動もできない」と高をくくっていた。米国による抑止力が効いていたので、危機感が薄く、平和主義者の声が相変わらず優勢だった。
過去の取材を総合すれば、日米は、朝鮮半島有事に関する共同作戦計画(Operation Plan)は持っているが、台湾有事についての共同作戦計画は持っていない。米国にしてみれば、政治的な決断ができていない日本と一緒に計画を作る必要はなかった。自衛隊独自の作戦計画のなかには台湾有事を想定したものがあるが、これは米国と連携していないため、全くの絵空事のような内容になり、「自衛隊の存在意義を確認するだけが目的の、使えない計画」だとされてきた。
ところが、中国の軍事力が急速に拡大し、尖閣諸島の領有が危うくなってくると、今度は俄然、「同盟見捨てられ論」が強くなってきた。最近は、米国が尖閣諸島を日米安保条約第5条の適用範囲にすると言うかどうかで、みな、一喜一憂している。見捨てられては一大事なので、米国が尖閣諸島よりもはるかに大きな関心を示している台湾にも目を向けるべきだという意見が自然と強くなる。
そんな日本が、日米2プラス2の文書に「台湾海峡の平和と安定の重要性」と明記した意味は重い。米政府の元当局者は「文書に明記された以上、米国は、共同作戦計画の前段階にあたる概念計画(Concept Plan)の策定を持ちかけるだろう」と予言する。これから、台湾有事を巡る日米の安保協議が活発化するのは間違いない。