経済・社会

2021.04.05 06:30

「台湾有事」で不戦の誓いが吹っ飛ぶ? 運命の決断、誰が決めたのか

米・インド太平洋軍のデービッドソン司令官(Photo By Tom Williams/CQ Roll Call)


問題なのは、こんな重要な決断が、国をあげての議論もなく、決まったことだ。台湾は日本のシーレーン上に位置している。台湾の未来は、日本の海上交通の安全を左右する。また、台湾が中国に統一されれば、中国の戦略原潜が太平洋を我が物顔で遊弋(ゆうよく)することにもなりかねない。だから、台湾有事に日本は関与すべきだという声は十分理解できる。
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一方、中国は激しく反発している。記者会見や日中の政府間接触などで、日本の動きを非難し、反発している。日本が中国と経済的に断絶する事態に至れば、日本人の生活は大きなダメージを受ける。最近も新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国製マスクが輸入できなくなった事態は記憶に新しい。尖閣諸島を巡る問題もあり、日本の世論は今、かつての「鬼畜米英」ならぬ「鬼畜中国」になって燃え上がっているが、マスク以上の経済的な苦痛が押し寄せてくる場合や、本当に軍事衝突に至ったときに、何年も耐えて国を支持していくだけの覚悟があるのかどうか。

それだけに、日本人が総出で侃々諤々の議論をしたうえで、納得した結論を出す必要がある。米国は1980年代、ソ連の中距離弾道ミサイルSS20に対抗するため、パーシングⅡ型ミサイルの西ドイツ配備などを決めた。その際、西ドイツでは受け入れるか否かで、国を挙げた大議論が巻き起こった。国会で、大学で、酒場で、みなが議論し合ったという。

日米2プラス2文書の「台湾海峡」を巡る記載について、私は当初、米国が日本に迫って飲ませた表現だと疑っていた。ところが、取材してみると、日本側も積極的にこの表記にするよう動いていたという。中心になったのは外務省北米局。米国との関係を担当する局だから、その心理はよく理解できる。だが、その後は、中国を担当するアジア大洋州局が「本当にこの表現で大丈夫か」というコメントを発しただけで、外務省全体でも、そして首相官邸でも、特に何のコメントもなく、しゃんしゃんで決裁されたという。国会は国会で、新型コロナのほかは総務省接待疑惑の追及で忙しく、この問題を巡る議論はほとんど起きなかった。
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米・インド太平洋軍のデービッドソン司令官は3月9日、米上院軍事委員会の公聴会で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と証言した。来年秋に予定される中国共産党大会で習近平中国国家主席が党総書記に3選された場合、その任期である5年以内に台湾有事を起こす可能性が高いという意味だ。

時間はもうほとんど残されていない。そればかりか、日本はもう重大な決断をしてしまった。菅政権は今、4月16日に予定される日米首脳会談について「最初の対面での会談相手に選ばれた」と喜んでいるが、日米2プラス2の決定について、更に念を押されることになるだろう。台湾有事に関与するにしても、「これはできて、これはできない」という積極的な提案をするための議論は全く起きていない。

このまま台湾有事に至れば、戦後日本が金科玉条のように守ってきた「不戦の誓い」や「専守防衛」「憲法9条」などは簡単に吹っ飛んでしまうだろう。でも、議論を避けたり、無視したりした人たちが、その時に至って「超法規的措置などけしからん」と怒っても、もう遅いのだ。

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文=牧野愛博

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