(3)挑戦:「不確実性の回避」が高いことは、前例に倣いやすく、リスクを取った挑戦をしにくいことを示す。一方で「男性的社会傾向」が高いこと(日本は世界2位)は「集団主義」的な傾向と合わせてチームで勝利すること、チームで品質を高めていくという観点での「挑戦」とは相性が良く、世界的に見ても高いクオリティのサービス等にそれが反映されているといえるだろう。「カイゼン」が得意で、「イノベーション」が苦手とも表現できる。
(4)新奇歓迎:「不確実性の回避」が高いことは、人に対しても作用する。組織・チームの中で、役割に応じて自分らしく才能を発揮することよりも、まず溶け込む・組織に適応することが求められやすい。
一方で、「長期的視点」が高いことは、新卒採用、年功序列、終身雇用に代表されるように、時間をかけ人を育成し、中長期的にチームが学び成長するという、心理的安全性構築のメリットそのものは受け入れられやすいと考えられる。
まとめると、日本の文化的背景を踏まえると、心理的安全性構築のハードルはアメリカより高く、腰を据えて行う必要がある。その逆風の中であっても、ひとつ導入指針を示すとすれば「(2)助け合い」に目を向け、中でも「助けを求める」行動を歓迎することではないだろうか(具体例は、次章で詳述する)。
概して日本の組織では、組織やチームのためであれば「助ける」側へと回る人は多い。実際に必要なタイミングで助けを求めることで、一人で抱えるよりも成果が出たことを体験・実感するところから、心理的安全性構築の一歩目を始めることができるだろう。
石井遼介◎ZENTech取締役。一般社団法人日本認知科学研究所理事。慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員。東京大学工学部卒、シンガポール国立大経営学修士(MBA)修了。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。2020年に上梓した著書『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)は現在15刷7.5万部を記録し、読者が選ぶビジネス書グランプリ「マネジメント部門賞」を受賞。「HRアワード2021 書籍部門」入賞。