VS中国、世界で渦巻く「ワクチン外交」日本は出遅れているのか?

3月上旬、日米豪印の枠組み「Quad」に出席するバイデン米大統領。4カ国が連携して、途上国向けにインド製ワクチンの増産支援を表明した(Getty Images)


──中国のワクチン外交に対するQuadの動き、アジア太平洋地域における勢力圏の構図は変わるのでしょうか。

ワクチン外交では、アジア太平洋地域を中心に「中国色」に染まっていくような地図をイメージされているかもしれません。ですが、途上国側からすれば、有効性が高ければどこの国のワクチンでも良いから欲しいという状況です。ワクチンを外交カードに使って便宜を求めるような取引をするとは思いますが、国取り合戦にはならないでしょう。

例えば、中国のワクチンに感謝をすることはあっても、全国家をあげて味方になるわけではありません。米ソ冷戦下の共産主義か自由主義の二者択一ではなく、ゼロか100かという勢力圏争いになるとは考えにくいです。

むしろこの点は、インド製ワクチンが普及することで、中国の影響力が中和されてバランスが取れるものと考えた方が賢明です。

中国産ワクチン、シノバック
中国のシノバック・バイオテックが開発した新型コロナウイルスワクチンは、トルコやタイなど各国に輸出。購入後、未承認の国もある(Getty Images)

──中国外務省側は、Quadの枠組みによる中国包囲網の形成について「排他的な小グループを作ってはならない」と警戒しています。

この発言は、バイデン政権発足後に日本や韓国と、それぞれの国で外務・防衛の閣僚協議「2プラス2」を実施したり、Quadの枠組みを展開したりしていることに対して、中国側が外交戦略上、懸念しているということです。

誤解を生じやすいですが、ワクチン外交は米中対立のごく一部であり、切り離して考えた方が良いと思います。実際にQuadでは、ワクチン支援だけでなく、5Gなどハイテク技術分野の連携や、ミャンマーの民主主義の早期回復、北朝鮮の非核化や日本人拉致問題の解決を目指すことも確認しています。

中国ワクチン外交の「効き目」がある国


──中国のワクチン外交の戦略の背景について教えてください。また、ソフトパワー戦略として効き目があるのでしょうか。

基本的には中国の「一帯一路」(習近平国家首席が2013年から推進している、アジアからヨーロッパ、アフリカ大陸をつなぐ巨大経済圏構想)の戦略にオーバーラップをしています。とりわけその戦略が効いているのは、その終点に当たるハンガリーとセルビアです。両国はワクチンの共同購入、分配されるEU加盟国ですが、東ヨーロッパ諸国も変異株が流行っていてかなり厳しい状況で、ワクチンへの期待が高いです。

ハンガリーはEUからの公正な分配が期待できないため、中国やロシアから独自でワクチンを受け入れています。このように欲しいのに手に入らないような個別の事情がある国々では、大きな効果が見込めます。
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聞き手・構成=督あかり

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