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2021.04.05

バブル崩壊とリーマンショックをサバイブした元CFOが選ぶ「絶望を希望に変えた2名著」

『読書大全』(2021年4月、堀内勉著、日経BP社刊)


邦題にある『夜と霧』は、ヒトラーにより発せられた総統命令のひとつで、ユダヤ人や反ナチス思想の人たちを、「夜と霧に乗じて」人知れず連行せよというものです。ドイツ語の原題は『心理学者、強制収容所を体験する』、英語のタイトルは“Man’s Search for Meaning:an introduction to logotherapy”(人の生きる意味とは)で、まさに人間にとっての「生きる意味」が考察されています。

フランクルは、ニーチェの「なぜ生きるかを知っている者は、どのように生きることにも耐える」という格言を引用し、人間が生きるということ、生きつづけるということにたいして担っている責任の重さを自覚すること、つまり、生きる意味を見つけ出すことが、生き残るための唯一の道であったとしています。

ここでいう「生きる意味」とは、なにか創造的なことをして目的を達成しようというような単純な意味とはかけ離れた、「死もまた含む全体としての生きることの意味」のことです。1944年のクリスマスには解放されるとの噂を信じた被収容者の中には、その期待が裏切られると、突然、力尽きて死んでしまう者が大勢いたそうですが、フランクルは、人間にとっては苦しむことや死ぬことにさえ意味があり、自分にしか引き受けられないその1回限りの運命とどう向き合うのかが重要なのだといいます。

そして、人生はどのような状況にも意味があるのだとして、次のように語っています。

「人は強制収容所に人間をぶちこんですべてを奪うことができるが、たったひとつ、あたえられた環境でいかにふるまうかという、人間としての最後の自由だけは奪えない」

「ここで必要なのは、生きる意味についての問いを百八十度方向転換することだ。わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ、ということを学び、絶望している人間に伝えねばならない。哲学用語を使えば、コペルニクス的転回が必要なのであり、もういいかげん、生きることの意味を問うことをやめ、わたしたち自身が問いの前に立っていることを思い知るべきなのだ」

つまり、人間というのは、常に「生きる」という問いの前に立たされている存在であり、それに対して実際にどう答えるかが我々に課された責務なのだというのです。
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構成=石井節子

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