ニューヨークに「アートレンタル」というシステムがなかったわけではない。ギャラリーのいくつかは作品を積極的に貸し出している。だが、その多くは作品価格の1割を毎月支払うなど、非常に高額だ。
そこでCurinaは10万〜500万円ほどの現代アート作品を、月額38ドル(約4000円)、88ドル(約9000円)、148ドル(約15000円)の定額制とし、レンタル期間終了後は購入も可能とした。これが20代〜30代の「アートに興味はあるが一歩踏み込めずにいた」潜在層を多数取り込んだ。現在のサービス対象エリアはニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州の3州だが、今回得た資金でアメリカ全土への拡大も期待される。
サービスイン直後のコロナ禍で繰り出した秘策、昨夏の「Black Lives Matter(BLM)」旋風とアートの関係、ビジネスにおけるアートの存在意義について、代表取締役社長の朝谷実生さんに話を聞いた。
Curina代表取締役社長 朝谷実生さん(撮影=澤圭太)
──2019年10月からサービスを開始されましたが、翌年、新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、ニューヨークも3月上旬からロックダウンされました。事業を押し進めるには厳しい時期だったと思います。
プラットフォームビジネスなので、アーティストがいてお客様がいる──つまり「鶏と卵」のように順番に育てていくことをイメージし、最初の3カ月は作品獲得のため、アーティストの発掘を行っていたんです。おかげさまで100作品ほどが集まって、次はお客様の獲得に注力しようと思っていた矢先にコロナになってしまい……。3月、4月はお客様どころか、進んでいたパートナーシップの話も中断しました。
しかしながら、NYのロックダウン期間が長引いたことで、自宅環境への投資が進んだんですね。日本もそうだったと思いますが、自宅で使う仕事用のデスクが売れたり、観葉植物が売れたり、サブスクという選択肢が広がったり。そういう世の中の動きが弊社にとっても後押しとなりました。
──サービス自体はどのように認知されていったのですか?
コロナ前は、不動産関連会社と提携していました。アメリカは引っ越しの際に不動産ブローカーを雇い、1日に3軒〜4軒回って物件を決めるのですが、不動産関連のブローカーやマネジメント会社が弊社を紹介することで認知され、口コミで広がった形です。
コロナ後は、完全にデジタルのマーケットに切り替えました。ロックダウン中の皆さんがクリエイティブなことに飢えていると感じ、アーティストの情報などを積極的に発信していったことで、認知度が徐々に上がっていきました。