アートをもつという自己表現。NYでサブスクを展開する社長の視点


──現在、登録アーティストは約120名、1500点の作品を預かっているわけですが、セレクションはどのように?

ありとあらゆるものがそろっている「アート版amazon」になった瞬間に終わってしまうので、相当考えました。

大事にしたのは、心に残る作品をつくっているアーティストをキュレーションするということ。具体的には、作品群がきちんとあるか、ポートフォリオに一貫性があるか、これまで個展やグループ展に出した経験があるかなど。ディーラーやギャラリーと一緒に働いたことがあるかも判断基準のひとつです。まったくキャリアのないアーティストの場合はこちらから出向いて(注・コロナ前)、作品についてだけではなくその人のバックグラウンドなども尋ね、面白いストーリーがあるかどうかで判断しました。

たとえ「アートの首都」と称されるNYであっても、アーティストとして成功するのは本当に大変です。ギャラリーは、売れる確証のないアーティストをそうそう抱えられない。だったら私たちは、才能のあるアーティストにスポットライトがなるべく当たるようにしたいと考えました。


登録アーティストのひとり、Kati Vilim (カティ・ヴィリム) さん。ハンガリー出身で、現在チェルシー地区にスタジオを構えている

──イギリスに住まれ、幼少期には美術館にご家族とよく通ったとか。アートにどんな喜びや面白さを感じていたのですか。

子どものころに美術館で見ていた作品は宗教画が多かったのですが、宗教画というのは字の読めない人にもストーリーを伝えるためのものだったんですよね。だからパッと見て「きれいだな」で終わりではなく、そもそもこの果物にはどういう意味があるのか、この青色はどういう象徴なのかなど、意味やサイン、記号を解読していくのがすごく面白かったです。家族と一緒に見れば「これはこういう意味なんじゃない?」と会話も発生しますし。

現代アートに興味を持ちはじめたあとも、この作品がどうして評価されているのか、美術史においてはどんな意義があるのかまで含めて考えると、本当に興味深くて、そのうち作家が実際に住んでいた家を訪れたりするようになりました。中学生のころです。

南フランスのジヴェルニーという地域にモネが住んでいた家があって、そこには睡蓮の作品によく描かれる橋や川が庭にあるんですよね。感動しました。ゴッホだったら、彼が自殺前に描いたとされる『カラスのいる麦畑』の麦畑や、『オーヴェルの教会』のモデルとなった教会に行って、「こういう心理だったのかな?」などと慮ったり。作品だけではなく、その作品を描いたアーティストの人生を感じられることが楽しかったです。

──アーティストの人生や、作品にこめられたストーリーを重視する点がいまのお仕事に通じていますね。

そうですね。そういう原体験がもしかしたら作用しているのかもしれません。アートというのは作品のみならず、アーティストの人生がブランディングになっているところもあるので、その実人生を知ることは作品を好きになるうえで重要な部分ではあると思います。
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インタビュー・構成=堀 香織

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